吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

デトロイト

 1967年、全米最大の黒人暴動が起きた都市デトロイトを舞台にした、悪夢の一晩を描いた実録もの。主役はジョン・ボイエガが演じる警備員のはずだが、全然活躍の場がない。最後まで異彩を放っていたのは若き悪徳警官の人種差別者を演じたウィル・ポールターである。その憎たらしい顔は忘れられない印象を残した。

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 キャスリン・ビグロー監督の作風は相変わらずのリアリティ重視なので、陰惨な事件は陰惨なままに描くから、見ているのが大変つらい。暴動のさなかに恐怖にかられた白人警官が歪んだ正義感を振りかざして黒人たちを追い詰め、非道な尋問を行うという状況は誰にとっても不幸なものだった。なによりも、暴行され血まみれになり恐怖の一夜を過ごすことになった若者たちにとって。観客もまたその恐怖に叩き込まれる。
 いまだにアメリカでは白人警官による黒人射殺などの事件が後を絶たない。だからこの作品をいま作ることの意義はあるのだろう。とはいえ、そもそも事件が起きるまでが長い。起きてからの恐怖の尋問シーンが長すぎる。見終わったらへとへとになってしまった。それほど、この恐怖は身近に実感できるものだった。不当な尋問で死の恐怖を味わう黒人たちの状況は手に取るようにわかるし、役者たちの震えや汗や血の臭いまで漂よってきそうなリアルな映像づくりには圧倒されるが、恐怖はそれだけではない。白人警官たちの恐怖もまた伝わるのだ。許しがたい差別者であり、無抵抗な黒人たちにとっては権力の暴力装置である警官が、実は彼らなりに恐怖にかられていることもまたウィル・ポールターの怪演で観客に伝わる。
 白人警官によって拷問のような取り調べを受けたのは黒人青年たちだけではない。白人女性2人もまた殴られ、売春婦と罵られ、辱めを受けた。黒人と白人の女、あまりにもわかりやすい弱者が虐待されたこの事件の後味は悪い。いくら実話といえども、ここには何の救いもない。必見作の一つとは思うが、個人的には二度見る勇気はない。(レンタルBlu-ray

DETROIT
142分、アメリカ、2017
監督:キャスリン・ビグロー、製作:ミーガン・エリソン、キャスリン・ビグローほか、脚本:マーク・ボール、撮影:バリー・アクロイド、音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演:ジョン・ボイエガ、ウィル・ポールター、アルジー・スミス、ジェイソン・ミッチェル、ジャック・レイナー、ベン・オトゥール