吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ヒマラヤ ~地上8,000メートルの絆~

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 これも実話をもとにした山岳映画。

 さすがは韓国映画だけあって、感情に訴える場面のうまさは特筆すべき。その一方、残念ながら山のシーンの迫力がいまいちだ。いや、この作品しか観たことのない人ならこれでも十分満足の出来だろうが、なにしろつい先日、ドキュメンタリー「メルー」で驚異の映像を見てしまった後だけに、ついつい比べてしまう。

 物語の大筋はこうだ。現役を引退した世界的に有名な韓国の登山家が、ある日、後輩の遭難死を知る。彼の遺体が標高8700メートルのヒマラヤ山中に置き去りにされていることがわかると、直ちに遺体回収のためのチームを組み、困難な「デスゾーン」へと登山を開始する。果して後輩の遺体を運んで無事に下山できるのか?

 映画の前半はコミカルで、テンポもよく軽いノリの話が続く。登山のための訓練の様子やベースキャンプでのやりとりも漫才のようだが、若き登山家パク・ムテクが遭難してからはぐっとお話が暗くなり、泣かせる場面が連続する。ヒマラヤ山脈のあちこち、特にエベレスト山にはいくつもの遺体が放置されている。中には道標になっているものさえあるというのだから、この高度で遭難すると遺体は家族のもとに戻れないことも普通なのだ。この映画でも、登頂の栄誉のためではなく、「単に遺体を回収する」ためだけにチームが組まれる、という至難のプロジェクトが組まれる。これは、自己犠牲の精神がなくては実行できないイベントだ。だからこそ見る者の感動と涙を誘うし、それゆえに映画化もされた実話なのだろう。

 なぜ山に登るのか。そこに山があるから。この映画ではその答えが違う。そこに大事な後輩の遺体があるから。彼が待っているから。家族のもとに返してやりたいから。そんな理由で8000メートルを超える山に登る人がいたとは驚きだった。自分たちだけでも大変なのに、重い遺体を持ち帰るなんて。もちろん想像を超えるような難作業が待ち構えているのだ。それでも果敢に挑戦した人々がいたことは心に留めておきたい。(レンタルDVD)

THE HIMALAYAS
124分、韓国、2015

監督:イ・ソクフン、脚本:スオ、ミン・ジウン、撮影:キム・テソン、ホン・スンヒョク、音楽:ファン・サンジュン
出演:ファン・ジョンミン、チョンウ、チョ・ソンハ、キム・イングォン、ラ・ミラン