吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります

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 鑑賞してから数か月経つので細かいことは忘れているけれど、とても気持ちのいい印象が残った作品。

 元教師のルース(ダイアン・キートン)と画家のアレックス(モーガン・フリーマン)は結婚40年の二人暮らし。子どもはいないが、楽しい毎日を過ごしてきた。だが眺めの良さが気に入って購入したアパートにはエレベーターがなく、高齢者となった今、二人は5階にある自分たちの部屋を売ってエレベーターのあるアパートに引っ越そうと決めた。ルースの姪で不動産屋のリリーが仲介してくれることになっている。さあ、新聞に広告も出したし、いよいよ今日は部屋の内覧会。いろんな人たちが彼らの部屋を訪れ、値踏みしていく。果たしてうまく売れるのだろうか。

 ルースとアレックスが家を売ろうとして、二人の40年を振り返って自分たちの生活を見つめ直す、というあらすじ。予想通りの結論に落ち着くところが安心安全な物語だが、この二人のアパートが100万ドルっていうのには仰天した。ニューヨークってそんなに高いんですか。しかもそんな値段で買おうという人もいるのね。二人が家を売ろうとしたまさにそのときにニューヨークでテロ事件が発生した! さあ大変だ。この事件のせいで不動産価格が乱高下するのである。たった一日でころころと価格が動く投機的な不動産売買には、見ていて嫌気がさす。リリーがあくどい不動産業者に見えてくるではないか。彼女にしたらふつうに仕事をしているだけなのだろうけれど、不動産が投機の対象となるかのような、博打っぽい展開にはバブル経済を彷彿させて嫌な気分になる。この映画には少しずつ「嫌な事」が仕込まれていて、不動産売買をめぐる金儲けや、テロ事件にからむイスラム教徒差別や、レズビアンへの冷淡なまなざしやら、微かな社会批判が込められている。
 たった一日の小さな話の中に多くのことを詰め込んだ脚本はなかなかのもの。若き日の二人の姿が回想シーンとして現在と重なる編集もよい。舞台劇のような狭苦しさを感じ始めたころに二人が外に出かけてくれるので、場面展開のタイミングもぴったり。ニューヨークの街歩き的な楽しさもあって、行ってみたくなる。

5 FLIGHTS UP
92分、アメリカ、2014 
監督: リチャード・ロンクレイン、製作: ロリー・マクレアリーほか、製作総指揮: モーガン・フリーマンほか、原作: ジル・シメント 、脚本: チャーリー・ピータース、撮影: ジョナサン・フリーマン、音楽: デヴィッド・ニューマン
出演: モーガン・フリーマンダイアン・キートンシンシア・ニクソン
キャリー・プレストン、クレア・ヴァン・ダー・ブーム、コーリー・ジャクソン