吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ザ・ウォーク

 これほど手に汗握り、足が気持ち悪くなった映画は初めて。おかげで途中で靴下を脱いで足を座席に上げていたよ。とてもまともに見ていられません、高いところが怖い人間にはこれほど恐怖をそそる映画はない。

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 この映画の内容についてはドキュメンタリー映画「マン・オン・ワイヤー」で見て知っていたが、再現ドラマとなった本作のほうがはるかにドラマティック!

 映画は主人公のナレーションによって進むから、当然彼がWTCの綱渡りで死んでいないことはわかっている。結果が分かっているにもかかわらず、これほど手に汗握る映画も珍しい。「アポロ13」以来ではないか。

 主人公のフランス人フィリップは、幼いころから綱渡りに興味を持ち、大人になるころには大道芸人となっていた。そんな彼は、勝手に「師匠」と思い定めた綱渡り師に教えを乞うが、結局長くは続かない。そんなある日、フィリップはニューヨークに世界一高いビルが建設されることを知り、猛然と興味をそそられる。そのビルがツインビルであったことが彼の運命を変えたのだ。彼はその二つのビルの間に綱を渡して渡りたいという欲望に取りつかれてしまった。その日から彼の壮大な計画が始まる・・・・

 フィリップの計画を実行するために、様々な人間がスカウトされていく。そのさまが実にスリリングで面白い。こんな人を仲間に入れて大丈夫か、と心配になるような人間ももちろんその中には含まれる。逆に、よくぞこの人を仲間にできたよね、という偶然の僥倖もある。
 彼の仲間の個性が実に豊かで、フランス人もアメリカ人も、洒落のわかる人は実に気持ちがいい。これは、この仲間の中に一人でも杓子定規にものを考える人間がいたら絶対に成功しなかった事例である。 

 入念な事前の計画もあやうく風前の灯となりそうな危機を何度も乗り越え、いざ本番となったときには、「ぼく、高所恐怖症なんだ。無理っ」という数学教師を巻き込んでロープを張る羽目となるフィリップには大いに同情するけれど、高いところが怖いわたしにとってはその数学教師の気持ちが痛いほど分かる。てか、映画をみながら足がすくんで、ぞわぞわと気持ち悪くなり、しまいにはほんとうに卒倒したらどうしようと思うほど怖かったのだから(涙)。

 この映画の見所は少なくとも2か所ある。最大の見所はもちろん綱渡りの最中だが、それ以外は、その準備過程で様々に起きる想定外の出来事。実にスリリングである。豪胆な人物と映ったフィリップ自身も実はきわめて繊細な精神の持ち主で、決行の前日には緊張で眠れないとか(当たり前)、いろんな細かな描写がこの決行の日に向かって収斂されていく様子が実に小気味よい。 

 このような偉業を二十代の時に成し遂げてしまった人のその後の人生が気になる。その後のフィリップを描いた映画ができることを望む。

THE WALK
123分、アメリカ、2015
製作・監督・脚本: ロバート・ゼメキス、製作: スティーヴ・スターキーほか、原作: フィリップ・プティ『マン・オン・ワイヤー』、脚本: クリストファー・ブラウン、撮影: ダリウス・ウォルスキー、音楽: アラン・シルヴェストリ
出演: ジョセフ・ゴードン=レヴィットベン・キングズレー、シャルロット・ルボン、ジェームズ・バッジ・デール、ベン・シュワルツ