吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

アデライン、100年目の恋

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 試写にて。
 まさにアクトレス・ムービー。女優を見る映画です。主役のブレイク・ライヴリーって日本でいえばさしずめ夏目雅子か。

 29歳のときに落雷に遭ったのが原因で老化が止まってしまったアデラインという美しい女性が主人公。2015年の今、彼女は107歳を迎えるが、輝くばかりの美貌と知性を身につけている。アデラインが次々と優雅なドレスをまとって現れる、80年に及ぶファッ

ションショーのごときお伽話である。ブレイク・ライヴリーが古風な顔立ちをしているので、80年分のメイキャップの変遷に違和感がない。

 24歳で生んだ娘もすでに80代半ばになり、娘のほうが先に逝くことが目に見えているような状態で、アデラインは娘の介護のために同居しようとするが、すげなく断られる。本性がばれないようにアデラインは10年ごとに引っ越しを繰り返し名前を変えて生きてきた。娘ともとっくに別れ別れとなっていたのだ。これまで何度も愛犬の死に出会い、次々と愛する者に先立たれるつらさを味わってきたアデラインは、恋愛にも臆病で、誰も愛することができないでいた。たった一人、40年前にイギリスで出会った青年を除いては。

 自分だけが歳をとらず、若さを保ち続ける苦しさと切なさは、バンパイア一族と同じ。「ポーの一族」を思い出すかのような設定だが、アデラインは吸血鬼ではないので、不死なわけではない。だがたまたま100歳過ぎまで事故にも遭わずに生き続けてきたわけだ。なんで歳をとらないのか不思議だけれど、そんなことの科学的説明はどうでもいい。どうでもいいことは実にどうでもいいようにしかこの映画は描かない。さまざまなどうでもいいことをすべて無視しておとぎ話は進む。
 この映画の見どころはアメリカ現代史のおさらいと、アデラインのファッション。着せ替え人形アデラインの美しさに見とれていればそれでいいわけで、2時間ちかくうっとりと過ごせます。あとは、彼女が時代ごとに発声やしゃべり方を変えているというのもミソ。でも英語がわからないわたしにはさっぱりそのあたりの面白さが理解できなかった。残念である。

 もう一つ興味深いことは、現在のアデラインの勤務先がサンフランシスコの「資料館」であること。”Lirary”と映画の中では説明していた(と思う)が、どうやら地域資料館のような感じだ。彼女の仕事は大量の古いマイクロフィルムの整理。その中から懐かしい新聞記事を見つけて思わず見入ってしまう。この映画じたいが古い時代のリサーチにこうした資料館を利用したのだろうな、と思わせるところがなかなかよい。篤志家が寄付を持ちかけるあたりもいかにもアメリカの資料館らしい。その篤志家がアデラインが100歳を過ぎて恋に落ちるお相手である。

 共に年老い、共に死に向かう。永遠の美や永遠の若さなど要らない。これが愛することの美しさに違いない。「ああ、歳は取りたくない」「老けたなー」と嘆くよりも、一緒に歳を重ねることの幸せをかみしめる。そんなささやかな、そしてゴージャスな映画です。ひたすらブレイク・ライヴリーを見ていましょう。逆に言えば、彼女が好みでなければ見ているのがつらい映画。

THE AGE OF ADALINE
113分、アメリカ、2015 
監督: リー・トランド・クリーガー、製作: トム・ローゼンバーグほか、脚本: J・ミルズ・グッドロー、サルヴァドール・パスコヴィッツ、音楽: ロブ・シモンセン
出演: ブレイク・ライヴリー、ミキール・ハースマン、キャシー・ベイカー、ハリソン・フォード、エレン・バースティン