吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。

もうひとつの約束

 韓国の巨大企業サムソンを相手に労災補償闘争を闘った実話をドラマにした力作。

 江原道の港町束草(ソクチョ)のタクシー運転手、ハン・サング(パク・チョルミン)は妻と2人の子供と、平凡ながら幸せな家庭を築いていた。娘のユンミ(パク・ヒジョン)が韓国随一の企業、ジンソン電子の半導体工場に就職したことに、家族も誇らしげだ。ところがほどなく、ユンミの体に異変が現れる。ジンソンの社員が見舞金を手に一家を訪れ、辞職願と労災申請放棄の覚書にサインを迫る中、ユンミは22歳の生涯を閉じる。病名は急性骨髄性白血病

 サングは労災を申請するが承認されず、労務士のナンジュ(キム・ギュリ)と共に、被害者を集め提訴に踏み切る。ジンソンの執拗な妨害工作に離脱者が相次ぐ中、サングは言う。「絶対にあきらめない。父親だから」そして裁判は結審を迎える。(映画の日本上映委員会公式サイトより)

  ユンミが登場するなりいきなり病に倒れていて、映画の途中で早々に亡くなってしまう。わりとあっさり退場してしまうのだが、ここから父親の闘いが始まるのだ。娘が大企業に就職できたことが嬉しくて仕方がなかった父親が、やがて「わが社は国民を食わせている」と豪語する独占企業を相手に壮絶な裁判闘争を繰り広げる。その様子が緻密に、そしてテンポよく描かれていて、演出の冴えが感じられる作品だ。暗くて重い作品だがユーモアもあり、役者の熱演もあって、ぐいぐい引き込まれていく。 
 サムソン(映画の中では「ジンソン」)を相手に裁判闘争したと書いたが、実際には被告は労災保険を扱う「公団」である。日本で言えば、労働基準監督署を相手に労災認定裁判を起こしたようなものだ。しかし実際には、サムソンと公団は一体となって労災認定を拒否している。さまざまな妨害工作をしかけてくるサムソンの人事担当者が本当に嫌味でたまらない。サムソンのような大企業は労働者を使い捨てのコマとしか見ていないことが如実にわかる。両親を懐柔するために提示する金額が徐々に上がっていき、最後は億単位にまで跳ね上がるのが皮肉だ。
 ユンミの両親は、裁判をやめて和解すればサムソンから多額の賠償金をもらえることがわかっていても、あくまでも労災認定を求め続けた。彼らの闘いをともに闘ってくれた女性労務士と男性弁護士の奮闘も素晴しい。不屈、とはまさに彼らのことを言う。そしてこの映画をクラウド・ファンディングで資金調達したキム・テユン監督の努力もまた不屈であった。サムソンからの無言の妨害や圧力のために出演を引き受ける役者が見つからない状況下で、主演を引き受けたパク・チョルミンらの勇気を称えたい。
 公害や職業病は原因企業の責任を追及することが難しい。発病の因果関係を立証する責任は原告側(被害者)にあるからだ。現に、何人もの労働者が白血病や血液の病気に倒れたというのに、裁判では因果関係を認められないケースもある。サムソンの半導体工場は世界最高水準の設備を誇る。しかし、その実態は過度の生産競争により、安全よりも効率が優先され、安全教育がないがしろにされていた。丹念にその状況を調べ上げ、証人を捜してまわる努力に頭が下がる。法廷場面も迫力と緊迫感があり、見ごたえのある作品だ。

 実際の父親はとても明るくよくしゃべる人だった。その明るさ、その強さがこの裁判を勝利に導いたのだろう。諦めないこと、屈しないこと、努力すること。その大切さが胸に響いた映画だった。

原題「 (Anoter Family)」(2014年・韓国、115分)
出演:パク・チョルミン、キム・ギュリ、パク・ヒジョン、イ・ギョンヨン
企画・脚本・監督:キム・テユン
制作:もうひとつの約束製作委員会