長身に長髪をなびかせサングラスをかけて颯爽と登場する、ロックスターのようにかっこいいパガニーニ、最高! 演じたデヴィッド・ギャレットは本物の超絶技巧ヴァイオリニスト、イケメン、演技もうまい。宴会後の鑑賞にもかかわらず、びた一秒も寝ることなく最後まで見ていた作品。わたしが寝なかったというだけでも良作の証拠。イケメンと超絶技巧のなせるわざ。
幼いころから父親に厳しくバイオリンをしこまれたニコロ・パガニーニは宮廷音楽家の職を辞し、フリーの演奏家となる。華々しい成功の陰で浪費、淫乱、ギャンブルで破滅寸前。梅毒にかかって薬を手放せない毎日だ。典型的な「天才となんとかは紙一重」の破滅的な日々を送る、「悪魔に魂を売った」と呼ばれた音楽家。その驚くべき才能はまさに悪魔的。それゆえに、彼の行く先には「道徳向上女性同盟」という血に飢えた倫理主義者たちが群がる。いわく、「パガニーニは処女を食い物にした。女たらし。不道徳。出て行け」と。鳴り物入りでどこにでも現れてはパガニーニに嫌がらせをする彼女たちの滑稽さには思わず苦笑してしまった。まるで村上春樹の『海辺のカフカ』に登場する難癖つけのフェミニストたちのよう。
パガニーニは自らも演出家として自分を売り込むのがうまかったようだ。彼には有能なマネージャーがついてメディアを利用するべく攻略を弄する。そもそも映画の冒頭がこのマネージャーであるウルバーニが登場してパガニーニに「君はもっと売れる」と悪魔のささやきを吹き込むところから始まるのだから。
パガニーニ成功の要因は、単に才能に恵まれていただけではなく、メディアを活用したということが見て取れる。パガニーニの才能に惚れた女性記者が書いた絶賛記事が彼の成功を導いた。それは女たらしのパガニーニにすれば計算づくなのかどうかも怪しいが、時代はそのように動いていたのだ。メディアを制するものが成功する、と。
パガニーニは果たして成功した音楽家だったのだろうか。この映画では演じたデヴィット・ギャレットが若くて美しいので映画内でのパガニーニの老いも病も実感できないが、実際には放蕩がたたって性病に罹っていたとか、いろいろ言われている彼が破滅的人生を送ったことは間違いなさそうだ。
で、この映画を見ていたわたしにとっては、実物のパガニーニがどれほど病んでいようが怠惰であろうが、ロックスターみたいなヴァイオリニストが演じたというだけで鳥肌もの。最後まで音の洪水に溺れていられました。あー、至福至福。サントラほしいよー。
THE DEVIL'S VIOLINIST
122分、ドイツ、2013
監督・脚本: バーナード・ローズ、製作: ロジリン・ヘラーほか、音楽: デヴィッド・ギャレット、フランク・ファン・デル・ハイデン
出演: デヴィッド・ギャレット、ジャレッド・ハリス、アンドレア・デック、ジョエリー・リチャードソン 、クリスチャン・マッケイ