吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ネイチャー

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ディープ・ブルー」「アース」「ライフ」と続くこのシリーズは全部映画館で見ている。なので、今回も。で、今回は3Dだ。素晴しい~! この日2本目の試写なので疲れて途中でちょっと寝てしまったが、そんなことはいい。このシリーズはあまりにも気持ちよくて、絶対に途中で寝ることになっている。それはもうお約束。だから、寝てもよいのである。

 雄大な大自然の映像と壮麗な音楽のコラボというシリーズの基本路線は変わっていないが、「ディープ・ブルー」(2003年)から比べると演出が格段に進歩している。「ディープ・ブルー」がほとんど何の解説もつけずにただひたすら海の生命を映し続けたのに比べると、日本語で適度な解説ナレーションがついているのが良い。これが「ライフ」だと日本語ナレーションがうるさすぎたのであるが、その点は適度な分量なのでほっと一息つける。

 今回は、初めての3D映像なので、やはり最も力の入るところは水しぶきが観客に向かって飛び散る場面や、煮えたぎる熔岩が流れて砕ける臨場感溢れるシーンだ。象の母子数組が水を求めて延々と砂漠を旅する場面や魚の群舞はどこかで見た記憶を呼び覚ますもので、さほど新鮮味はない。とはいえ、それらが3Dで蘇るとまた感動が新たになる。そして超高速で撮影された開花シーンは圧巻だ。花びらが踊るようにはじけて開く。花のガクが、弁が、茎が、生き物のように笑顔を見せ、蛇のようにスルスルとぬたくりながら伸び上がる。

 今回の映像は、アフリカを舞台とする。熱帯雨林を世界で初めて垂直に30メートル落下撮影することに成功したという映像には、天から大地に飛び降りた神の気分を味わえるだろう。熔岩と有毒ガスが吹き上がる湖は死の世界。だがここにやって来る大量のフラミンゴがいる。彼らはここにしかないコケを食べ、その色によって全身を美しくピンクに染め、一糸乱れぬ求愛ダンスを踊る。あの世があるならばここか、と思える映像に酔う間もなく、次は灼熱の砂漠へ。世界最古の砂漠はナミビアナミブ砂漠。ここではシャベルカナヘビというトカゲのような小動物が手足をバタバタと振るコミカルな姿が観察できる。

 不思議なことに熱砂の限界点は海なのだ。これほど水が溢れ漲る場所と乾ききった大地とが接しているとは。土色の大地に食い込むように青い波が打ち寄せる岸辺の向こうには、珊瑚礁が広がる。ゆったりとヒレを動かして泳ぐカラフルな魚たちが見える。観ているだけで喉が渇く砂漠のシーンの次にこれを見るのはちょっとした箸休めならぬ、ティーブレイクの気分だ。

 と思えば次は雪を被るアフリカの山が映る。赤道直下に、昼間は夏で夜には氷が張るという場所がある。標高5千メートル近いその山に住むゲラダヒヒの毛玉のように長い毛が面白い。

 圧巻はまだある。インディ・ジョーンズもびっくりという激流を下った先の水辺に生息するナイルワニだ。彼らは一年に一度しか食餌を摂らない。年に一度来るかどうかわからない獲物のヌーを待ってじっと水中に身を潜めているのだ。その不気味な様子には思わず固唾を呑む。撮影するのも危険極まりなかったであろうその場面をどれだけの忍耐力を持ってカメラは待ち構え続けていたのか。それを考えると気が遠くなる。大変な撮影の苦労と一年半を超える時間をかけてこの驚異の映像は完成した。

 百聞は一見にしかず。GWはぜひ家族そろって「ネイチャー」3Dを楽しんでください。(試写にて。機関紙編集者クラブ「編集サービス」誌(http://club2010.sakura.ne.jp/service.html)に書いた記事を元にしています)

ENCHANTED KINGDOM 3D

93分、イギリス、2014

監督: ニール・ナイチンゲイル 、パトリック・モリス 

ナビゲーター: 滝川クリステル