星の旅人たち
映画を見るたびに「死ぬまでに一度は行きたい場所」が増えて困る。
聖地巡礼の映画を見るのは二本目。「サン・ジャックへの道」のような話で、どちらが好きかと言えば「サンジャック」のほうだ。ユーモアのセンスがあちらのほうが良かったような気がする。
本作はマーティン・シーンとエミリオ・エステヴェスという本物の親子が親子役で登場し、エミリオは監督も務めている。
アメリカ人の眼科医トムの元にある日突然一人息子の訃報が届く。息子ダニエルは父との折り合いが悪く、あまりつきあいもなかったのだが、大学院の勉強を放棄して聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラへ旅に出た矢先に事故死したのだった。衝撃を受けたトムはフランス・スペイン国境付近の町に遺体を引き取りに行って、息子のやり残したことをやり遂げる決意をし、遺灰を持って800キロの巡礼の旅に出ることとなる。 800キロの山道を歩くうちに、トムはいつの間にか同行者を得て仲間となり、4人で旅を続けていくことになる。決して他人との折り合いがいいとはいえないトムが、見ず知らずの人々といつしか距離を縮めていく様子が心地よい。 最初は諍いがあったり反発したりした相手と次第に打ち解けていく、という物語設定じたいはまったく目新しさがないが、旅のそこここで亡き息子の姿を見るトムが切なく、ほろりとする。旅の仲間たちの国籍が違い、それぞれの個性が面白い。トムはやっぱりアメリカ人らしくフランス語もスペイン語も話せない。彼らは英語でしゃべるわけであり、英語帝国主義は全世界共通なのだと実感させる。
トムの家庭の事情があまり描かれず、なぜ親子の仲がよくなかったのかはわからない。わからないが、想像することはできるし、親子の価値観が異なることなんていくらでもあることだ。息子が死んでから彼を理解しようとしても、もう遅い。それは絶望的な「遅れ」である。その絶望的な遅れはどうやったら取り戻せるのか? 聖地への旅の疲れを癒すべく道端に座り込んでいると、ふと隣に息子がいる。黙って微笑み、うなずいている。もちろんそれは幻影なのだが、そういう形でトムは息子とのコミュニケーションをとっていく。その場面もまた微笑ましくも悲しい。
「人は人生を選べない。ただ生きるだけだ」
金持ちの医者であるトムがこの先、どう生き直すのか。彼の旅はここから始まる。わたしも巡礼の旅に出たくなった。この映画を見る観客の多くが旅に出たくなるのではなかろうか。素晴らしい風景、旅先の古くて小さな宿、共同宿舎のユースホステルみたいな光景には歴史を感じさせる。(レンタルDVD)
THE WAY
128分、アメリカ/スペイン、2010