吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

渇き

 いかにも、パク・チャヌク。この人の作品は絶対に好きにならない、なれない。けれど、異様な力がある。そもそも、カトリックの神父がバンパイヤになってしまって、若く美しい人妻と禁断の恋に落ちるなんていう奇想天外なストーリーを考えつく時点でやっぱりパク・チャヌクです。 

 この映画の中でもっとも秀逸な場面は、主役二人が初めて抱き合うところ。既に吸血鬼と化している神父サンヒョンは、恋情を抱いた人妻テジュに対しても、ついつい首筋に噛みつきたくなる。二人が絡み合う場面で、サンヒョンがテジュを食い殺すのかどうかが気になり、激しく心をつかまれ、画面に目が釘付けになる。テジュの白い乳房が露わになり、二人は激しく求め合う。このエロティックな場面の緊張感はたまらない。「これって、R-18だろうなぁ」と思いながら見ていたが、意外にR-15だった。

 神父でありながら吸血鬼と化し、さらには人妻に恋して、その夫を殺害してしまうサンヒョンの葛藤がもっと厳しく描かれていなければ嘘だと思うのだが、どういうわけかサンヒョンはいったん心を決したら、もはや人間としての良心を一切失ってしまったかのような行動に出る。さらにもっとあからさまに自分の欲望に正直に生きるのがテジュである。彼女は不幸な生い立ちの可哀想な女性のはずなのに、自分の欲望のままにふるまえることを知った瞬間に、もはや歯止めのきかない強欲な人間と化す。 

 わたしたちはこの作品で、人間の強欲の深さを知る。そして、それらが自分とは無縁とはまったく思えないところに何よりも恐怖を感じる。この映画はホラーであると同時にコメディでもあり、それが韓国映画の特徴なのか、どんなに深刻な場面にでも必ず「笑い」を挿入する。恐怖と笑い、その落差で作品のアンバランスにイライラするか、面白いと思うか、このあたりでパク・チャヌクの評価も分かれよう。

 パク・チャヌクって、きっと女性のわがままや強欲に振り回された苦い経験があるのだろうなぁ、もろにそのトラウマぶりが作品に現れていて苦笑してしまう。女は奇っ怪で理解しがたく、欲望の固まりで、反省も自省もなく男を翻弄する。白い肌の誘惑は高くつくのだ。その自嘲と悲しみが同居するラストシーン、壮絶です。

THIRST
133分、韓国、2009
製作・監督・脚本: パク・チャヌク、原案: エミール・ゾラ、音楽: チョ・ヨンウク
出演: ソン・ガンホキム・オクビン、シン・ハギュン、キム・ヘスク、オ・ダルス