ランアン・ゴズリング主演作連続レビュー第3弾。
以前はノーチェックだったのに、今はお気に入りの男優。今年になってからの3本はいずれも彼が大人の雰囲気を身に付け始めて、かっこよさが際立つ。ハンサムなだけではなく、憂いや悲しみを瞳に漂わせることができるようになった。
7月13日ごろの毎日新聞夕刊コラムに、高倉健の魅力について書いてあった。いわく、「自分の大切な人を守るためにはそれだけの犠牲を払う」「ひたすら寡黙」云々。正確な物言いは忘れたが、まさにこの映画のライアン・ゴズリングそのものだ。
昼間は自動車修理工兼スタント・ドライバー、闇の顔は銀行強盗犯を手助けする運び屋運転手。超絶技巧の運転技能を持ちながらなぜ闇の仕事に手を出すのか、彼の過去は謎だ。巻頭からスタイリッシュな画面展開が続き、音楽もテンポよくしゃれていて、ぐっと観客をつかみに来る。ドライバーが犯罪者達を逃がしていく場面の正確無比な動き、無駄のない場面展開と台詞のない鋭角的な演出は胸のすくようなかっこよさだ。
ドライバーは同じアパートの隣人アイリーン(キャリー・マリガン)と出会ってたちまち恋に落ちる。この映画のキャリー・マリガンは大変愛らしい。「守ってあげたい」と思わせるような愛らしさだ。キャスティングがよかった。アイリーンには服役中の夫がいて、可愛い息子もいる。夫の留守中に人妻に手を出すのかと思いきや、寡黙なドライバーはそんな簡単にわかりやすい女たらしではない。間もなく出所してきたアイリーンの夫は刑務所の中で借金を作っていた。その借金を返さなければ命が危ない。ドライバーは愛する人を守るために、その夫を助けることにするのだが…。
スタイリッシュな犯罪映画かと思いきや、アイリーンの夫が殺されたあたりから映画は一気に暴力化する。ドライバーの中に眠っていた暴力への誘惑が爆発したのか? いったいどうやってそんな身体技を身につけたのか、彼はアイリーンと自らを守るために俄然反転攻勢に出る。ここからが血なまぐさくて眉をひそめる顰める画面がてんこ盛り。壮絶なのはエレベーターの中のシーン。この場面はたぶん映画史に残るだろう。スローモーションと照明の転回を組み合わせたあの場面はどうやって撮影したのか不思議だ。
ほとんど台詞がないから極めて静かな映画なのだが、後半の暴力の炸裂がその静けさを破り、観客もアイリーンも腰が引けてくる。そこまでの暴行を目の前で見せられたらふつうは引くでしょ。ドライバーは一人マフィアと戦うのに、彼が戦えば戦うほどアイリーンは彼を恐怖の目で見つめることになる。これが男の悲しき宿命。愛する者のためと思って必死で働けば働くほど「仕事中毒で家庭を顧みない」と非難されるサラリーマンの悲哀をここにも見るような。
ヤクザ映画はやっぱり本質的に肌に合わないということがよくわかったが、ライアン・ゴズリングのかっこよさとキャリー・マリガンの愛らしさが横溢しているので良きかな。この映画を見てうちの長男Y太郎はすっかりライアン・ゴズリングのファンになり、早速ライアンの写真を持って美容院に行き、ゴズリングカットにしてもらってご満悦であった。
DRIVE
100分、アメリカ、2011
監督:ニコラス・ウィンディング・レフン、製作:マーク・プラットほか、製作総指揮:デヴィッド・ランカスターほか、原作:ジェイムズ・サリス、脚本:ホセイン・アミニ、音楽:クリフ・マルティネス
出演: ライアン・ゴズリング、キャリー・マリガン、ブライアン・クランストン、クリスティナ・ヘンドリックス、ロン・パールマン、オスカー・アイザック、アルバート・ブルックス