吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

戦火の馬

 シャーリーズ・セロン主演「ヤング≒アダルト」を見て不愉快になったので(といっても90分の映画のうち、前半40分は予告編から既に爆睡)、お口直しにこの一作。
 「ヤングアダルト」に続いて見た「戦火の馬」があまりにも美しい感動もので、心が温かくなった。ほんと、映画はこうでなくちゃね。安全安心、お子様からお年寄りまで家族揃って見ましょうね。やっぱりディズニーですね。

 たいそうまっとうな感動作なので奇をてらったことを書くのがはばかれる。ありきたりで面白くないという論難をも吹き飛ばす映画的魅力と勢いに満ちた作品だ。これは劇場で見ないときっと退屈して寝てしまうだろう。ラストシーンでは「風と共に去りぬ」を思い出してしまった。そっくりなアングル、夕焼け、音楽。もうこれ以上ないという王道映画です。


 第1次世界大戦までは軍馬が大いに活躍した。本作も第1次大戦に徴用されたイギリスの農耕馬ジョーイの数奇な運命と波乱万丈の戦闘を描く雄大な作品だ。イギリスでは第1次大戦で100万頭もの馬が徴用され、無事に帰還したのはわずか6万頭だという。そういえば50年近く前に亡くなったわたしの父方の祖父は日露戦争に出征し、乗馬のせいで痔になって帰還したという話を思い出した。

 閑話休題。
 農耕馬として買い取られた美しい毛並みを持つ足の速いジョーイは軍馬として徴用され、フランスへと送られる。ジョーイは戦場をめぐりめぐり、ドイツ軍に捕まったり脱走兵を運んだり、フランスの少女に匿われたり、波乱万丈の運命をたどる。いく先々で人々に愛されるジョーイだが、彼を大事にしてくれた人々は次次に亡くなっていくのだ。そして最前線の塹壕では、「戦場のアリア」みたいな感動的な場面もあり、ジョーイが経験する戦場の過酷さがこの映画を反戦映画たらしめる。戦争の犠牲になるのは人間だけではないのだ。

 騎馬戦の場面は黒澤映画以来の伝統的な撮り方に加えて空撮(と思うけど、クレーンか?)を用いて高さのある素晴らしい鳥瞰。絵柄的にはまったく素晴らしく映画館向きの映画だ。最後はもちろん涙涙のクライマックスを迎える。分かっているのに泣いてしまう。なんてツボを押さえるのがうまいんだろう。

 エンドクレジットの最後にコダックのロゴが見えたのが嬉しかった。フィルムで作られている作品はもはや少数派になってきた。コダックがついに倒産した今となっては新作でこのロゴを見られることはない。実に残念だ。

 というわけで、絶対に劇場で見ないと損をする、映画らしい映画。家族揃って堪能してください。

WAR HORSE
146分、アメリカ、2011
製作・監督: スティーヴン・スピルバーグ、共同製作:キャスリーン・ケネディ、製作総指揮: フランク・マーシャル、レヴェル・ゲスト、原作: マイケル・モーパーゴ、脚本: リー・ホール、リチャード・カーティス 、音楽: ジョン・ウィリアムズ
出演: ジェレミー・アーヴァインエミリー・ワトソンデヴィッド・シューリス、ピーター・ミュラン、ニエル・アレストリュプ