吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

しあわせの隠れ場所

 サンドラ・ブロックのラブコメを2作続けて紹介した(http://d.hatena.ne.jp/ginyu/20120306)ので、ついでにラジー賞受賞の翌日にサンドラがアカデミー賞を受賞した「しあわせの隠れ場所」をご紹介。


 なんでも金なんだなぁ…と思わず嘆息。金があれば解決できることは山ほどある。実際、世の中の90パーセント以上のことは金で解決できるのではないか? わたしが今抱えている困難も、たぶん金があれば98パーセントぐらいは解決できる。


 誰もが寒さに震える日に、Tシャツ半パン姿で道を歩く巨大な黒人少年を、偶然車で通りかかった裕福な白人一家が拾う。この偶然から物語は始まる。拾われた黒人少年がスポーツの才能を持ち、性格もよい気持ちのいい子どもであったことが幸いし、白人一家の慈悲を得てアメフト選手として大成する、実話を描いた物語。

 一言で言うならば、金持ち白人がその恵まれた立場を使って才能ある黒人を育てたという、<上から目線>の白人優位物語。だから、見ている間中、なんだか心地よくないものを感じた。と同時に、金持ち白人の寄付精神が心地よい。なんだかどっちつかずになってしまう。それはわたし自身がその両方の間を揺れているからだろう。

 マイケル・オアーという、心優しく礼儀正しい黒人青年は白人一家に迎え入れられ、彼女たちの庇護の下にプロ選手への道を歩んだ。マイケルをわが子のように可愛がった肝っ玉かあちゃんリー・アンをサンドラ・ブロックは貫禄たっぷりに演じた。これは実話であるから、美化や自己弁護があるだろうが、それでもやっぱり、彼女は人を見る目があったのは確かだ。道で拾った貧しい黒人が自分の家で盗みを働かないということがわかり、それどころか、その大きな身体で自分の大切な人々を守る本能に長けていることも看破する。これはもう、相性の問題だ。リー・アンは奇跡のように相性のよい黒人を拾った、としかいいようがない。学業成績も芳しくなく完全に落ちこぼれるマイケルに家庭教師を与えてでもなんとか勉強させるリー・アンの根性もすごい。


 物語全体がユーモラスでテンポもよく、サクサクと進む話に気持ちよく接することができる。もちろん、<貴族の喜捨>をどう評価するかは人それぞれだとは思うが。リー・アン一家の人の良さ、まだ幼い長男の小生意気な交渉上手ぶりとか、笑えてかつほのぼのする描写には、「偽善」という香りとともに、その香りを払拭するような説得力がある。スラヴォイ・ジジェクならどのようにこの件をこき下ろすのだろう、と『ポストモダン共産主義』を読みながら思った。(レンタルDVD) 

THE BLIND SIDE
128分、アメリカ、2009
監督・脚本: ジョン・リー・ハンコック、製作: ギル・ネッターほか、原作: マイケル・ルイス、音楽: カーター・バーウェル
出演: サンドラ・ブロック、クィントン・アーロン、ティム・マッグロウ、キャシー・ベイツ、リリー・コリンズ