大変面白い娯楽作。ナチスを翻弄するユダヤ人という設定がよい。
ナチスの軍人とユダヤ人が入れ替わるという、まるでチャップリンの「独裁者」みたいな笑えるお話。タランティーノの「イングロリアス・バスターズ」ほど荒唐無稽ではなく、さりとて史実にどれほど近いのかは定かでない程度の、逸脱のナチス裏話もの。
物語の舞台はウイーン。ユダヤ人画商として成功したカウフマン一家にナチスの手が忍び寄る。カウフマン家の長男ヴィクトルと使用人の息子ルディとは幼馴染の仲良しだったのに、ユダヤ人とナチスの下士官という身分に引き裂かれてしまう。
物語は、父カウフマンが密かに入手していたミケランジェロの幻の素描をめぐるサスペンス。この名画をムッソリーニにプレゼントすることによってイタリアの気を惹こうとするヒトラーは、なんとしても絵の隠し場所を突き止めたい。カウフマンの息子ヴィクトルを拷問して隠し場所を聞き出そうとするナチスだったが、ひょんなことからヴィクトルとルディが入れ替わってしまう。ここが爆笑の必見シーン。
しかし、史実として、ナチスがなぜイタリアの気を惹く必要があったのかが不明だ。確かに1943年9月にはイタリアが連合国に降伏してしまうから、その前にドイツはイタリアをなんとか引き止めたいとしていたであろうが、そのために名画をムッソリーニに贈るというのが実際の手として有効であったかどうか。この映画ではイタリアがやたらドイツに対して居丈高である。しかしそこが面白いところなので、史実がどうであろうと、この映画のなかでの設定を飲み込んで鑑賞するのがよろしいかと。
もともと親友同士だった二人が敵味方に分かれてしまうという悲劇なのだが、それを悲劇一色にせず、笑いをまぶしたところに新味がある。だが元親友というしがらみがあるゆえに、やはり二人がそれぞれに思い迷ったりする場面があるのが切ない。
この映画のタッチは完全なコメディではなく、完全なサスペンスでもなく、ある意味で中途半端なのだが、逆にそれがぎりぎりのところでリアリティを失わずにいるのがよい。サスペンスの謎解きとしてはあまりにも杜撰で、結末は途中で分かってしまうが、それも含めてお愛嬌とみるべきかと。
監督:ヴォルフガング・ムルンベルガー,製作:ヨゼフ・アイヒホルツァー,脚本:ポール・ヘンゲ,脚色:
ヴォルフガング・ムルンベルガー,音楽:マシアス・ウェバー
出演:モーリッツ・ブライブトロイ、ゲオルク・フリードリヒ、ウーズラ・シュトラウス、マルト・ケラー、ウーヴェ・ボーム、ウド・ザメル