吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

エリックを探して

 ケン・ローチが珍しくコメディを撮ったというので期待して見に行ったのだが、いかんせん、サッカー事情に疎いため、面白さ半減。エリック・カントナって誰よそれ状態なので、本人が本人役で登場しているとか言われてもどこが面白いのかまったくわからない。でもきっと面白いんだろうなぁと想像しながらなんか悔しかったりして。


 主人公エリック・ビショップは郵便配達人。2度の離婚の後、二度目の妻の連れ子2人を男手一つで育てているのだが、この2人の男の子が非行少年たちで手を焼かせる。郵便配達の仕事で失敗をやらかし、何をしても冴えないエリックにとって師と仰ぐカリスマは引退したサッカー選手エリック・カントナ。今日もまたカントナのポスターに向かって愚痴をつぶやいていたエリック・ビショップの前に、なんと本物のカントナが突然現れる。

 という、ファンタジーなコメディ。エリックの前に現れたもう一人のエリックはやたら格言好きで、エリックの耳元でやれ「高波を危ぶむ者は海に乗り出せない」だの「賽を振らねば目は出ない」だのとアドバイスを繰り返す。エリック・カントナに励まされた情けない男エリックは、勇気を振り絞って前進しようとするが…。


 エリックとその仲間たちのおしゃべりがとても楽しい。プロの役者ではなく素人を起用したのではないかと思えるほど素朴な人々の会話は一見退屈なものに思えてその実、仲間たちの絆を深める何気ない優しさとユーモアに満ちている。彼らはすぐにパブに集まる。ビールを飲んでは「作戦会議」。そんなヤバイ話をパブでしても大丈夫?と心配になる。 

 ケン・ローチのコメディはこれといった爆笑シーンがあるわけでなく、どちらかといえばダラダラした雰囲気で、「この監督、コメディに向かないんじゃない」と心配になり、途中でちょっと寝てしまった。しかし、これがなんと、最後になって突然テンションが東京スカイツリー並みに上がり、怒涛のクライマックスへとなだれ込む場面ではもう爆笑につぐ爆笑。ここで一気に点数が上がりました。


 やはりケン・ローチらしいのは、悪人をやっつけるために仲間が団結するところだ。エリックを悩ませる悪人たちをやっつけるため、いざゆかん、団結の力だ、これを見よ! 郵便配達のプロたちが、自分たちの日頃の腕前を使ってヤクザ者をなぎ倒す。


 見終わったあと、とても楽しい映画を見たという満足感にひたれる佳作。エルビル・プレスリーの「ブルースエード・シューズ」がかかっていたのも個人的には受けました。

                                              • -

LOOKING FOR ERIC
117分、イギリス/フランス/イタリア/ベルギー/スペイン、2009
監督: ケン・ローチ、製作: レベッカ・オブライエン、製作総指揮: エリック・カントナほか、脚本: ポール・ラヴァーティ、音楽: ジョージ・フェントン
出演: スティーヴ・エヴェッツ、エリック・カントナ、ステファニー・ビショップ