吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

君が踊る、夏

仁淀川の沈下橋や四万十川が映る、個人的にとても懐かしい映画。家族旅行で訪れた高知の町角や山や川が素晴らしく美しい。子どもたちが小中学生のころにカヌーで川下りをした仁淀川や四万十川が懐かしい思い出だ。


 5年以上の延命率ゼロと言われている小児癌に罹っている少女が、闘病5年を超えてよさこいを踊ったという実話を元にしているという字幕が巻頭に登場する。今もこの映画のモデルとなった少女は病気と闘っているという。「病気と闘う」という常套句にまずは違和感を感じつつ(有国遊雲くん*1は病気と闘ったりしなかったことを想起し)、期待値が低い映画であったが、予想外にいい作品。ありがちな青春映画だけれど、主人公が身近な人たちとの絆と自分の夢=野望とを秤にかけて悩む場面では、映画が表出させる価値観の歴史的変化が興味深く見て取れた。

 実在のモデルがいて、本人が今でも闘病中という事情を勘案すると、この手の映画には無意識に厳粛な気分で「立ち向かう」ことを強いられているような気分になる。しかしこの作品の主人公はこの少女ではなく、少女との約束とカメラマンになる夢との間で揺れる若者である。高度経済成長期と違って、今では上昇志向よりも小さく身近なところにまとまるという志向が強くなっているためか、映画の主人公の選択にも時代を感じさせる。

 イケメンの若者たちを登場させたために、やたら顔のアップが多いところがアイドル映画っぽくて苦笑してしまうが、ラストのよさこい踊りというクライマックスがあるために、大変清清しく気持ちのいい映画である。真夏の一番暑いときによくあれだけ踊れるものだと感心する。若さっていいですなぁ〜(すっかりおばさん)。


 高知を舞台に、未来の進路に悩み恋に傷つく若者たちの青春ドラマ。ちょっと恥ずかしいくらいに王道を行ってます。

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123分、日本、2010
監督・脚本: 香月秀之、企画: 有川俊、共同脚本: 松尾朝子、音楽: MOKU、主題歌: 東方神起
出演: 溝端淳平木南晴夏、五十嵐隼士、大森絢音、DAIGO、藤原竜也本田博太郎、宮崎美子、隆大介、高嶋政宏、高島礼子

*1:小児癌のため15歳で逝った少年。住職である父智光さんが、遊雲君の死後、『遊雲さん、父さん』を著して息子と対話しながら生きること死ぬことを見つめた