吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

帰らない日々

 地味だけれど、なかなかの力作。

 
 息子をひき逃げされた夫婦と、その犯人との物語。ひき逃げ犯がなかなか見つからないことに業を煮やした被害者が雇った弁護士はなんと、ひき逃げ犯その人だった。そんな偶然が! と思うけれど、海辺の小さな町ではそんなこともありえるだろう。そして、轢いた犯人も自責の念に囚われている。犯人にだって同い年ぐらいの息子がいるのだ。


 一方、被害者の夫婦はこの事件をきっかけに少しずつ亀裂が入るようになる。犯人捜しに夢中になり仕事(大学教員)もおろそかになる夫。妻は、日常生活をこなさねばならない立場にあって、いつまでも息子の死を悲しむばかりではいられない。幼い娘の世話だってあるのだ。


 そんなふうに、被害者家族と犯人の心理を丹念に追う。忘れてならないのは、事件の背景に「離婚」があることだ。そもそもひき逃げはなぜ起こったのか? 離婚した妻の元に息子を約束の時間までに送り届けねばならない男は運転を焦ったのだ。そしてなぜ逃げたのか? 事故がばれたら息子との面会権を奪われるから。犯人の側にも同情すべき点があることを観客は知る。交通事故という、誰もが被害者加害者になる可能性のある事件だけにリアリティがあり、他人事とは思えない。

 
 離婚家族の問題が背景にあって事故は起き、被害者の家族もまた離婚の危機に瀕する。家族はもろい。この脆さをうまく演じた役者たちの熱演はなかなかのものだ。


 被害者・加害者、どちらの立場にも立たない作りには感心したが、たいへん地味で、特別の構成の工夫もないために、いまいち突き抜けた感じがないのは残念。秀作だとは思うが、期待しすぎないように。(レンタルDVD)

RESERVATION ROAD
102分、アメリカ、2007
監督: テリー・ジョージ、製作: A・キットマン・ホー、 ニック・ウェクスラー、原作: ジョン・バーナム・シュワルツ『夜に沈む道』、脚本: テリー・ジョージ、ジョン・バーナム・シュワルツ、音楽: マーク・アイシャム
出演: ホアキン・フェニックスマーク・ラファロジェニファー・コネリー、ミラ・ソルヴィノ、エル・ファニング