吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

インビクタス/負けざる者たち

 今年1月、試写会にて。正月から連続してパープルローズさんが試写会の招待券を引き当ててくださったので、今年はたくさん試写を見られてありがたいです。


 さてこれは素直に感動できる佳作。スポ根に政治を絡めた作品だけれど、ヒトラーがナチズムの宣伝にオリンピックを利用したのと同じようにネルソン・マンデラは和解と赦しのためにワールドカップを利用する、その目的が異なるとこれほど感動が違うのかと驚きを禁じ得ない。


 2009年のクリント・イーストウッド監督2作に比べればこの作品は緩い。特に前半はテンポが悪く、緊張感も希薄で、映画の世界にわしづかみにされることがない。しかし、さすがにラグビー・ワールドカップの試合場面になるとものすごい臨場感に圧倒される。やはりスポーツ映画の興奮というのは劇場でこそ味わえるというもの。この映画は家庭のテレビで見たら感動が半減以下になるだろう。
 ただし、わたしがラグビーを知らないから感動できたのであって、知っている人が見たら恥ずかしくなるほどみっともないという意見もあるので、この場面の評価は人によって異なるでしょう。


 ネルソン・マンデラの「赦しと和解」路線がこの映画の肝要な部分である。全編そのために描かれていると言っても過言ではない。自分たちを抑圧し仲間を殺傷した白人公安刑事たちを大統領警備に就ける。これほど大胆な手腕を発揮するマンデラには驚くばかりだ。反発し抗議する黒人警官に「赦し」の大切さを説く。


 どんな理屈よりもスポーツは人々の心を一つにする。なぜお荷物チームがワールドカップで優勝するまでに強くなったのか、そのあたりはあまりよく分からなくて、スポ根ものとしてはちょっと説得力に欠けると思われる。しかし、チームが心を一つにするきっかけとして、マンデラが囚人として27年間を過ごした独房を彼らが訪ねる場面は感動的だ。大統領にお茶に招かれ、激励されることによってマンデラを尊敬するようになったキャプテンのフランソワ(マット・デイモン、かっこいい)は、マンデラの独房でかつての囚人に心を馳せる。「インビクタス」は、かつて
ンデラが独房で心を奮い立たせ不屈の精神を涵養すべく暗誦していた詩のタイトルである。インビクタス、征服されざる者。30年近くを刑務所で過ごした不屈の人に思いを馳せることによって、チームもまた奮起するのだ。

 
 どうやらチームが強くなり勝てたのはメンタルな部分の鍛錬のおかげのように思える。確かに地元で開催された試合は、自チームに圧倒的に有利だ。スタジアムの熱狂的な応援には否が応でも気持ちが高まる。しかし決勝戦の相手とて歴戦の勇士、ニュージーランドチーム。ニュージーランドの選手達の「マオリ族の踊り」もすごかった。これは必見です、迫力満点。結果がわかっている試合だというのに、手に汗握って画面に釘付けになった。さすがの演出力です、イーストウッド監督。


 何よりもマンデラの偉大さがクローズアップされる作品である。と同時に後に離婚してしまった妻たちとの確執もまたさらりと描いてもの悲しかった。寂しい家庭人マンデラの陰の部分をモーガン・フリーマンはさりげなくそして見事に演じている。

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INVICTUS
134分、アメリカ、2009
監督: クリント・イーストウッド、製作: ロリー・マクレアリーほか、製作総指揮: モーガン・フリーマン、ティム・ムーア、原作: ジョン・カーリン、脚本: アンソニー・ペッカム
出演: モーガン・フリーマンマット・デイモン、トニー・キゴロギ、パトリック・モフォケン、マット・スターン