なんという解りやすさ。これは「8 1/2」の解説書のような映画だ。このおかげで、オリジナルのわかりにくかったところがすべて霧が晴れるようにすっきりした。しかしここには<苦悩>はあっても<狂い>はない。悩めるイギリス人はいても浮かれたラテン男は感じられない。これを見ると俄然、オリジナルを見直してみたくなった。
それにしてもソフィア・ローレンのなんという美しさ。なんという妖艶。それ以外の出演者も、オリジナルに比べて女優達がみな若くてゴージャスだ。これはオリジナルがモノクロで、こちらが派手にライトアップされたカラー作品だから、ということもあるのかもしれないが、さすがにミュージカルに作り替えただけあって、絢爛豪華な画面には圧倒される。ケイト・ハドソンの60年代ゴーゴーふうの踊りは素晴らしい。わたしも思わず一緒に踊りたくなったわ。ペネロペ・クルスがあんなに身体が柔らかくて歌も歌えるとは知らなかった。ジュディ・デンチの貫禄たっぷりな歌にも恐れ入った。
グイドの記者会見の場面など、たたみかける台詞の機転が利いていておしゃれだ。全般に非常にテンポがよく、これはこれでよくできた映画だと思う。オリジナルと同じく、グイドは女達に囲まれ、彼の苦悩を癒してくれる美しい女達にすがり、ある時は年上の女の同僚から叱咤激励をうけ、ある時は亡きママの幻影に癒され、ある時は愛人に煩わされ、ある時は妻に責め立てられ、ある時は美しき主演女優の愛撫を受け、ある時は娼婦の恐るべき逞しさに圧倒され、そして彼は創作の苦しみにもがきつつも、やがて不死鳥のように蘇る。
オリジナル作と同じようにグイドは女に囲まれるのだが、「NINE」のほうが女達が自立している。やはりこれが時代の流れか、かつてのように女を客体として描くのではなく、女たち自身にも自由な動きを与え、一人ずつを主人公のように登場させて自分の言葉で語らせているところが興味深かった。
もう少し映画らしい場面を増やしてもよかったのでは、と思うが、ブロードウェイの舞台セットをそのまま援用した(?)梯子のセットはわたしのお気に入り。光と影のコントラストが強くインパクトに富んでいる照明もよかった。
ところで劇場用パンフレットにはこの映画の製作裏話が書かれていて、ブロードウェイ版「NINE」はアーサー・コピットの原案にモーリー・イェストンが作詞・作曲し、イェストンが直接フェリーニに会見してお墨付きをもらったことから始まるという。ところが、映画評論家粉川哲夫さんによると、これがまったく事実と異なるというから驚く。
http://cinema.translocal.jp/2010-01.html#2010-01-27 この世界にはいろいろと裏があるようだ。
−−−−−−−−−−−−−−−
NINE
118分、アメリカ、2009
監督: ロブ・マーシャル、製作総指揮: ライアン・カヴァナーほか、原作戯曲:マリオ・フラッティ、原作: アーサー・コピット、脚本: アンソニー・ミンゲラ、マイケル・トルキン、撮影: ディオン・ビーブ、音楽: モーリー・イェストン、アンドレア・グエラ
出演: ダニエル・デイ=ルイス、マリオン・コティヤール、ペネロペ・クルス、ジュディ・デンチ、ケイト・ハドソン、ニコール・キッドマン、ソフィア・ローレン、ファーギー