吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

死刑執行人もまた死す

 いかにもブレヒトらしい左翼演劇の場面は少々笑ってしまったが、全体にたいへんスリリングでストーリー運びが巧み。最後はあまりにもスルスルとうまくいくのであっけにとられるが、そこがまた有無を言わせない力を持つ作品だ。

 
 1943年にアメリカで作られた、チェコを舞台とする反ナチ映画。と、これだけの前提でまず思い浮かぶのは、アメリカはまだ強制収容所での絶滅作戦のことを知らない、ということ。ドイツの敗戦が色濃くなる毎日での意気軒昂たる反ドイツ映画となるであろうことは容易に想像がつく。


 死刑執行人と呼ばれた冷酷なナチ高官ハイドリッヒ暗殺事件は実際にあったらしいが、それをヒントにブレヒトが痛快なサスペンス劇に仕上げた。反体制学者を演じたウォルター・ブレナンが好演している。


 なんといっても最後の、市民達がみなこぞって嘘の証言を重ねていく場面の爽快さがこの映画のクライマックスだ。ほとんどありえないようなことだけれど、ここまでうまくいくと実に愉快。しかし今度ははめられた裏切り者がかわいそうになってくる。これって冤罪やんか、そんなことしていいの?(^_^;)


 今から考えると演出が古めかしくお上品(ナチスの取り調べがあんなに穏やかなはずがない)だけれど、緊迫感に満ちたサスペンスフルな良作。こういうプロパガンダ映画は悪くない。(DVD)

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HANGMEN ALSO DIE
上映時間 120分、1943年、アメリカ
監督: フリッツ・ラング、製作総指揮: アーノルド・プレスバーガー、脚本: ベルトルト・ブレヒトフリッツ・ラング、ジョン・ウェクスリー、音楽: ハンス・アイスラー
出演: ブライアン・ドンレヴィウォルター・ブレナン、アンナ・リー、デニス・オキーフ