吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

シュタージ関係2冊

 映画「善き人のためのソナタ」を見る前に読んでおきたいのがこの2冊。見た後でもいいけどね。

 (1)監視国家 :東ドイツ秘密警察に引き裂かれた絆 / アナ・ファンダー著 伊達淳訳 白水社 2005.10


 シュタージの人間と監視された人間の両方へのインタビュー。巻末の解説によれば、シュタージの切り刻まれたファイルを復元するのに375年かかるという。

 

(2)ファイル:秘密警察とぼくの同時代史 / T.ガートン・アッシュ著 今枝麻子訳 みすず書房 2002.5

 友達だと思っていた人間が自分を監視し密告する人間だったとは! それを知ることの衝撃に胸が塞がれる思いがする。しかも誰もが自分が密告者であったことを正当化するのだ。ほかにどうしようもなかったのだ、と。

 おもしろいことに両書ともドイツ人が書いたものではない。アナ・ファンダーはオーストラリア人、ガートン・アッシュはイギリス人だ。シュタージについてはドイツ人自らが何かを書くことはできないのか? いや、そんなことはないはずで、日本語訳がないだけだろうか。
 証言集である『監視国家』よりも本人が自分のファイルを探索していく過程と自分を監視していた人間にインタビューを申し入れていく過程を描いた『ファイル』のほうが生々しく面白かった。修辞もアッシュのほうが優れていると感じたし、何より彼のほうが視点が定まっている。彼にはリベラリズムへの信頼感がある。
 ただしちょっと気になったのは、イギリスの「民主主義」への過度な評価だ。MI5の存在についても書かれていたけれど、どうなのかなぁと思った。イギリスだって「秘密警察」を持っているわけだしね。監視機構をもたない国家というのは存在しないのかもしれない。そもそも国家とはそのようなものではなかろうか。