「フリーダ・カーロ展」は見逃したが、映画「フリーダ」をDVDで鑑賞した後、猛烈に彼女のことを知りたくなった。
この本は日本人による初のフリーダの評伝だ。と同時に著者堀尾真紀子のメキシコ・パリ紀行文でもある。
フリーダ・カーロといえば、一本に繋がった眉の自画像で知られているメキシコの女性画家だが、47年の生涯に残した200点の絵のうち、ほとんどが自画像であり、彼女の強烈な個性が放出されるその独特の風貌が見る者を射すくめる。シューレアリズムを知らずにシューレアリズムを描いたとアンドレ・ブルトンに絶賛されたフリーダは、18歳で交通事故に遭い、瀕死の重傷を負って生涯その後遺症に苦しめられた女性である。21歳の年齢差をものともせず高名な画家であり共産党員でもあるディエゴ・リベラと結婚し、リベラの女性関係に苦しめられ続け、自らもその苦しみを埋めるかのように奔放な恋愛を繰り返した。
映像の力で迫る映画にはかなわないけれど、この本も映画では描かれなかったフリーダ晩年の苦しみを丹念に追っていて、いい評伝だ。フリーダとトロツキーの恋愛や、イサム・ノグチとの恋愛にも触れていて、映画のよい補遺となる。
晩年のフリーダは10年以上に亘って体の痛みにモルヒネを使って耐えていたわけで、その壮絶な苦しみを映画は描き切れていない。映画はむしろフリーダの強烈な個性や不屈の激情を描くほうに力点があった。
それに比べて本書は、彼女の肉体と精神の苦しみ、そして幼い頃からの愛への飢餓感、愛されることに執着し続けたその内面をじっくり描く。「フリーダを捜す旅――それは結局、自分自身を捜す旅ではなかったか」という唐突で余計な一文さえなければとてもよかったのだが。
この本がもともと雑誌『マリ・クレール』に連載された紀行文であるため、初心者にはたいへん読みやすい入門書になっているが、その分、美術史上のフリーダ・カーロの評価や彼女の周囲の魅力的な人々については最小限度しか書かれていない。また、画集でもないので、フリーダの絵を堪能するためには別の資料に当たる必要があるだろう。
生涯30数回の手術に耐えた苦痛の人生。最後まで夫ディエゴへの愛にすがり、苦しみ多いその愛とともに逝った女性の華やかで波乱にとんだ生き様に深い感動を覚える。