いわゆるひとつの、青春の旅立ち物語。
若き数学の天才ウィル・ハンティング(マット・デイモン)。
だが彼はその才能を生かすことなく、日々、下町の仲間と共にバーで飲んだくれ、下品で無内容な話に花を咲かせ、喧嘩をして警察に引っ張られる。仕事はMIT(マサチューセッツ工科大学)の廊下掃除。大学での学問をばかにしているくせに、職場は大学。ハントする女性はハーバードの医学生。
彼は飢えている。知識や教養を詰め込むけれど、それをどうコントロールしていいのかわからない。彼は飢えている。愛を求めるけれど、傷つくのが怖くて愛を口にできない。彼は飢えている。
精神科医役のロビン・ウィリアムズがとてもいい味を出している。「癒し系」の味だ。頭のいいひねくれ坊主を相手に悪戦苦闘するが、亡き妻の思い出を語りながら、徐々にウィルの心を開かせていく。
だが、私が違和感を感じたのは、妻との18年間が何ものにも代え難く尊いと彼が語る言葉。妻と過ごした18年で無駄な日は一日もなく、妻の病気のために仕事を辞めた6年間も無駄ではなかったと。だいたい、男たちは妻に先立たれると「いい妻だった」とか「結婚生活は素晴らしかった」と思うことが多いのか? 結婚は女にとってよいものではない。妻という名の女は結婚の中に多くを諦め、自尊心をずたずたにされながら、閉塞感を募らせていく。それでも自分で選んだ道だから、誰にも文句は言えない。───などと感じるのはひねくれ女の私だけか?
「海の上のピアニスト」も才能を捨てる男の話だったが、これもまた才能を捨てる男の話。しかし、観客がそれを見てなんともったいないことを、と主人公に同情するのは彼らがまさに天才だから。何の才能もない多くの人々は惜しまれることなく人生をやり過ごす。凡人は悲しい。ウィルが数学の天才だから傍目にもはっきりとその才能が見えるのか? これが社会科学系なら? 歴史学の天才、とか、地理学の天才、書誌学の天才、───全然派手じゃないし、天賦の尺度が判然としない。なんかフェアじゃないな。社会科学系は損だわ。
ウィルが大企業に就職してめでたしめでたしだったら、しょうもない映画だったけど、そうでないところがさわやかさを後に残してよかったね。(レンタルビデオ)
Good Will Hunting
上映時間 : 127分
製作国 : アメリカ
製作年 : 1997年監督 : ガス・ヴァン・サント
製作 : ローレンス・ベンダー
脚本 : ベン・アフレック
マット・デイモン
音楽 : ダニー・エルフマン
出演 : マット・デイモン
ロビン・ウィリアムズ
ベン・アフレック
ステラン・スカルスガルド
1997年アカデミー賞助演男優賞(ロビン・ウィリアムズ),脚本賞(マット・デイモン,ベン・アフレック)受賞