吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

狼たちの午後


 もう30年以上も前の映画。それだからこそ、アル・パチーノが若くてハンサム。それなのに、ちっとも古びていない銀行強盗の物語。この映画の面白さは、一種オバカと思えるほどの牧歌的な強盗と人質のやりとり、そして強盗と警察のやりとりにある。シドニー・ルメットの演出は、人を食ったようなこの事件をシニカルにとらえて秀逸。

 1972年、あるうだるように暑い夏の日、ブルックリンにある銀行に3人組の強盗が入った。犯人は自身も銀行員のソニーベトナム帰還兵のサル。そしてもう一人の仲間は銀行に押し入った瞬間に怖じ気づいて逃げてしまう。やむなく二人組となったソニーとサルだったが、なんと銀行にはほとんど現金がなかった。この事態に頭を抱えるソニー。意外なことにあっという間に犯行が外部に漏れて銀行は大勢の警官に包囲されてしまう。しかたなく銀行員を人質にとったソニーだったが、彼はクリスチャンであり、人質に危害を加える気が全くないということがわかって人質たちもすっかり脱力・安心。やがて銀行を取り巻いた野次馬たちが警察への敵意を露わにソニーたちを英雄視し始め、人質たちも妙にソニーたちと仲良くなってしまう…

 という、実話を元にしたお話。これがなんとも言えず間の抜けた銀行強盗と人質と警察の三すくみの状態で、思わずはらはらするやら笑うやら。銀行がブルックリンにあるという地理的条件もあるのか、野次馬がやたら犯人に同情的なのが可笑しい。その上、テレビ取材が入ると野次馬まですっかり有頂天。人質と犯人に食糧を配達しに来た宅配ピザの兄ちゃんなんて大喜びでテレビに映る始末。

 思えば劇場型犯罪のこの「型」は、35年経っても同じ構造を見せている。後期資本主義社会に生きるわたしたちの基本的心性は既にこのころには形成されていたと見るべきなのだろう。人質になった銀行の支店長も沽券に関わると意地を張って解放を拒否するなど、妙に一人一人が役割演技に熱中している様も興味深い。そのうえ、ソニーの愛人というか二重婚の妻というか、ま、要するにそういう人物が説得にやってくる場面で驚きの展開もあり、結末は分かっているのに先が読めない妙な展開で、ルメットの演出もたるみがなく、身体は小さいのに存在感抜群のアル・パチーノの熱演もあって、実に見所の多い犯罪映画である。

 ベトナム帰還兵のサルが危険な香りを漂わせながら始終ショットガンを離さない底知れぬ怖さとか、当時の時代状況もかいま見せている。人質になった銀行員の女性たちの中に外見からユダヤ系と思える人物が二人いて、黒人の行員がいなくて、犯人のソニーがイタリア系で、と、ニューヨーク下町の銀行の人種構造を反映している点も興味深かった。

 人質にしても犯人にしても警官にしてもそれぞれのキャラクターの書き込みに気配りが行き届いていて飽きさせない。色あせていない作品です。(レンタルDVD)

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狼たちの午後
DOG DAY AFTERNOON
アメリカ、1975年上映時間 125分
監督: シドニー・ルメット、製作: マーティン・ブレグマン、マーティン・エルファンド、原作: P・F・クルージ、トマス・ムーア、脚本: フランク・ピアソン
出演: アル・パチーノジョン・カザールチャールズ・ダーニング、ジェームズ・ブロデリック、クリス・サランドン、ペニー・アレン