吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2030年ごろかも。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

僕らのミライへ逆回転


 後ろの席の複数の男性が随所で大声出して笑っていたのがうるさかった。映画館で声を上げて笑うことなどほとんどないわたしにとってはそんなに思い切り笑えることが羨ましい。声を出して笑えない自分が損しているような気分。しかし、たとえ声を上げて笑うことはなくてもわたしは十分この映画を楽しんだ。なにしろ、映画への愛に充ち満ちた映画というのは「ニュー・シネマ・パラダイス」を筆頭としてわたしの涙腺を完全に崩壊させますから。

 今時DVDを置いてないレンタルビデオ屋って、それはなかろう? 自慢じゃないが、拙宅にはとっくの昔に再生機がなくなったので、VHSは見られません。しかし、この映画の舞台はそんな、VHSビデオしか並べていないニュージャージー州の下町のレンタルビデオ屋。ここは都市再開発の波に飲まれて市当局から立ち退きを迫られている。ところが老店長フレッチャーは、「この店は伝説のジャズピアニスト、ファッツ・ウォーラーの生家だ、由緒正しい場所である」と言い張って立ち退きに同意しない。ある日、店長の留守中に店員マイクの友人ジェリーが強烈な磁気を帯びて店にやって来たためにすべてのビデオテープの内容が消えてしまう。店を任されていたマイクは慌てふためき、あろうことか、自分たちで即席のリメイクを撮影してビデオをレンタルしようと思いつく。まずは「ゴーストバスターズ」。窮余の策のこのチープな作品がなぜか客に受けて、店は次回作を期待する客であふれかえり…

 最初から最後までお笑いネタ満載、とにかくこれはどうみてもアドリブでやってるよなぁという当意即妙の丁々発止が感じられる楽しい作品。後でパンフレットを読んだら、思ったとおり、かなりのアドリブが入っているという。ジェリー役のジャック・ブラックが自分のノリで好き放題に演じているところがまったく自然に面白可笑しい。ジェリーが発電所を爆破しようと忍び込んで感電してしまう場面からして面白すぎる。ただ、放射線ネタとか広島の被爆者ネタというのはちょっとわたしには笑えない話ではある。電磁波フォビアを嗤うというくだりは『「買ってはいけない」は買ってはいけない』の論調に近いものを感じる。こういう気になる点を除けば後は全編ひたすら可笑しい。

 旧作のリメイクというからには、その旧作が誰もが知っているヒット作でなければならず、従ってお気楽なハリウッド大作に偏ってしまう。ミシェル・ゴンドリー監督の好みで作品を選んだわけではないとか。この映画には安易なリメイクを繰り返すハリウッドへの皮肉と批判が込められているというが、むしろわたしには映画へのオマージュや愛情が感じられた。CGに頼る大作への批判というのは随所に見られるが、そういう安易なものを求める観客への批判的まなざしも十分感じ取れる。ハリウッドが映画の質を落とすのは観客自身の責任でもあるのだ。

 手作り大好きなゴンドンリー監督は、「恋愛睡眠のすすめ」でも見せてくれたクラフト感をいっそうグレードアップして、手当たり次第の材料を使って映画のセットや美術を作成してしまう。ロボコップの扮装などまさに爆笑ものです。いったいどこから拾ってきたの?という材料を身体中に貼り付けてジェリーがのし歩く姿は圧巻。できればリメイク作全部をゆっくり見てみたいと思った。

 さて、リメイク作で大当たりをとったのはいいけれど、世の中そううまくは運びません。きっちりやってきました、著作権ハンター。「ゴーストバスターズ」にも出演していたシガニー・ウィーヴァーが映画会社のエージェントとして損害賠償請求にやってくるところは皮肉が効いている。「映画の無断リメイクは映画制作者の権利を侵害し…」てなわけで、あえなくリメイクは打ち切りに。

 そこで思いついたのは、自分たちでオリジナルな映画を作ること。それも、町の人々を動員して!

 この、夢のある映画作りの場面が泣かせる。映画好きが集まって手作りで愛情あふれる映画を作る。これぞ映画の原点。こういう、愛に溢れた映画ファンのための映画にはわたくし、弱いです。

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僕らのミライへ逆回転
BE KIND REWIND
アメリカ、2008年、上映時間 101分
監督・脚本: ミシェル・ゴンドリー、製作: ジョルジュ・ベルマン、製作総指揮: トビー・エメリッヒ、ガイ・ストーデル、楽: ジャン=ミシェル・ベルナール
出演: ジャック・ブラックモス・デフダニー・グローヴァーミア・ファロー、メロニー・ディアス、シガーニー・ウィーヴァー