吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

2019-01-01から1年間の記事一覧

家族にサルーテ!イスキア島は大騒動

8月初めに見た映画。 舞台となったイスキア島の風景が美しい。「マンマミーア」の島に匹敵する素晴らしい陽光と眺望だ。地中海の島は美しいねぇ、一度は行ってみたい。 で、登場人物が19人もいてその人間関係を把握するだけで映画が終わってしまいそうな勢い…

COLD WAR あの歌、2つの心

個人的な好みから言えば、今年ナンバーワンの作品。もう一度見たいものだ。 極端な省略で綴る大河ドラマは、1949年から15年間の激しい恋の物語。鉄のカーテンの東西を往還しつつ、恋人たちは求めあい、また離れていく。 省略された行間は音楽が埋める。これ…

日日是好日

Blu-rayで見たからなのか、画面がたいそう美しくて心が和んだ。何も起きない淡々とした映画なのに呼吸をするようなリズムで画面が移り変わっていく、そして季節が移ろう様子が心地いい。茶道のお作法の複雑さがよくわかって、勉強になった。 黒木華と多部未…

フリーソロ

同じ監督の「メルー」を見たときにも驚異の映像に口あんぐりしたものだったが、今回はさらに恐怖の度数がアップ! こんなもの、よい子は絶対に真似してはいけませんよ! 今回の密着ドキュメンタリーの対象は、フリーソロと呼ばれる、ロープ無しの素手で断崖…

タロウのバカ

暴力、血、隔離された知的障がい者たち、叫び、暴力、育児放棄、援助交際、暴力、貧困、イジメ、血、排除。こんなマイナスのエネルギーが横溢する怪作が登場した。樹木希林の遺作「日日是好日」の大ヒットで注目を集める大森立嗣監督の最新作である。大森監…

記者たち 衝撃と畏怖の真実

4月に見た映画。 NHKなどの報道機関が政府広報に成り下がってしまった今こそ見てほしい映画。 ドラマはイラク戦争からの帰還兵が公聴会で証言する場面から始まる。青年は車椅子に乗ったまま、こう問いかける。「なぜ戦争を始めたのですか?」と。 物語は2001…

ロケットマン

まずは「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)ばりのド派手な鳥男が逆光の中に浮かび上がる印象的な場面から始まる。それは舞台衣装に身を包んだエルトン・ジョンだ。憔悴しきった彼はステージに背を向けて集団セラピーの場にやっ…

ゴッホ:天才の絵筆

ゴッホ自身がナレーションをするという設定の異色のドキュメンタリー。なんと、フランス映画であったのか。英語でしゃべっているからイギリス映画かと思ったが、そのナレーションの英語がけっこうなまっているのだ。これはわざとかと思ったが、実は本当にな…

3月のライオン

1月に見たので詳細は忘れてしまったが、前後編におよぶ長い作品にもかかわらず、引き込まれて見た。 一度も将棋を指したことがないわたしにしても、その世界の厳しさや美しさが垣間見えて、長い作品にも関わらずのめりこんでみていた。おそらく原作の漫画が…

サバイバルファミリー

ある日突然、すべての電源が消失するというSFコメディ。コメディと言いながらかなり真面目だし、でもやっぱり設定は大甘だし、ジャンルものとしては中途半端なところがいけなかったね。しかし、単なる停電と違ってすべての電力が喪失するという発想が秀逸だ…

ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー

そういえば、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』はまったく面白くなかった。なんでこれが世界的ヒット作? わたしには理解不能。だから彼の伝記には全然興味がなかったはず。なのになぜこのDVDを借りたのは意味不明だ。だから、やっぱり見終わっても「…

1987、ある闘いの真実

ソウル大生の拷問死という事実を基に描かれた、見ごたえたっぷりの社会派ドラマ。「タクシー運転手」も良かったが、この「1987」のほうが作品の完成度がはるかに高い。ただし、登場人物が多すぎて一回見ただけでは理解できなかった(酔っぱらっていたせ…

僕はイエス様が嫌い

22歳の学生監督が撮った作品がサンセバスチャン国際映画祭で最優秀新人監督賞を史上最年少で受賞したということでずいぶん前評判が高いようだ。 監督自身の体験を基にした伝記的な物語。それは東京から雪国に引っ越してきた小学生男子のひと冬の楽しく切ない…

シェフ 三ツ星フードトラック始めました

愉快痛快、音楽も軽快。実に気持ちよく、そしておいしそうな映画だった。役者も豪華で、こんな「ちょっとした話」なのにこの配役! 羨ましいです。製作・監督・主演のジョン・ファヴローの人徳かな? で、そのジョン・ファブローはいかつい身体に似合わずた…

8年越しの花嫁 奇跡の実話

意外にもいい映画だった。期待を裏切らない、いやそれどころかそれ以上の出来。瀬々監督はこういう作品も撮れるんだなぁ、驚嘆と同時に改めて敬服した。土屋太鳳の演技力にも舌を巻いた。弾ける若さを見せていたかと思えば突然の病気、豹変する表情やしぐさ…

12か月の未来図

「僕たちは希望という名の列車に乗った」と同じ日に見た。これもまた秀作で、フランスの教育事情の一端を描いた多くの作品の中でもとても良い出来。ただし、数年前に話題になった「パリ20区 僕たちのクラス」を未見だったので、比べることができない。 フラ…

ドキュメント輪禍 むちうたれる者

5月に神戸映画資料館で労働組合映画特集が開催された。その折に見た作品。 映画を見ながらいろんなことを考え、思考があちこちに飛ぶという楽しい経験をした。映画に映し出されるのは50年前の大阪。登場するタクシードライバーや社長がコテコテの大阪弁なの…

トム・オブ・フィンランド

ゲイ・カルチャーの先駆者と呼ばれた、フィンランド出身の画家「トム・オブ・フィンランド」(本名トーコ・ラークソネン)の半生を描いた静かでかつ力強い映画。 第2次世界大戦が始まったころ、フィンランドでは対ソ戦争が起きていた。トーコが若いソ連兵を…

ボヴァリー夫人とパン屋

最初はどうということもない物語かと思って見ていたのだが、次第にそそられていき、最後にはそのフランス風のエスプリに痺れさせられた。 まず、田舎の小さなパン屋の主人が元々は出版社勤務であり、父親が亡くなったので後を継いだという設定にそそられる。…

ザ・ダンサー

19世紀末のアメリカで女優を目指していたロイ・フラーが、やっと手に入れた役はセリフもなく舞台で踊るだけ。しかし、その時とっさに衣装を波打たせて踊った踊りが異様な喝采を受け、ダンスに目覚める。その後知り合ったフランス人貴族の援助を得て母の故郷…

作兵衛さんと日本を掘る

ユネスコの世界記憶遺産に登録された山本作兵衛(1892-1984年)の炭鉱画とともに炭鉱労働から日本社会を照射するドキュメンタリー。さすがに6年という時間をかけて作られた作品だけのことはある。 この映画にはいくつかの驚きがある。一つはなんといっても、…

アマンダと僕

ある日突然愛する人を失う、ということはありえる話だ。事故、事件、突然死、さまざまな理由で人は逝く。だから、この映画の主人公、24歳のダヴィッドが愛する姉をテロ事件で突然喪っても、それは交通事故死などと同じことかもしれない。 テロが原因で肉親を…

Webサイト閉鎖のお知らせ

2019年6月末を以てeonetのサーバーに置いていたWebサイト「吟遊旅人」がなくなりました。プロバイダー契約を解除したのがその理由です。 「吟遊旅人」内に掲載していたコンテンツについてはいずれ時間のあるときに少しずつはてなblogに引っ越ししますが、い…

長いお別れ

先日、この映画について語り合う会があった。15人ほどの参加者の平均年齢は60歳を軽く超えている。みなが口々にいう映画の感想がちっとも映画評でなくて自分語りになっているところが印象に残った。つまり、それだけこの映画には観客が感情移入せざるをえな…

ホワイト・クロウ 伝説のダンサー

映画素人には難しいのではないか。時間と空間を瞬時に交差させる演出。ほのめかしに過ぎない場面でも、実はヌレエフの性的好奇心が描かれている。 彼は1938年、シベリア鉄道の中で生まれた。厳しいスターリン粛清の嵐が吹き荒れていた時代だ。父は熱心なスタ…

女王陛下のお気に入り

2月に見た映画。 斬新な映像感覚、研ぎ澄まされた音の効果、緊張と弛緩のほどよい交錯。三人の女の演技がぶつかる興奮。映画的興奮を味わわせてくれる、わたし好みの作品だ。 舞台は18世紀初頭のイングランド。この当時の国王であるアン女王のことはまったく…

ジョーズ

午前十時の映画祭にて。 公開から40年以上経って、ついに見た。この映画は1976年の正月映画として日本でも大ヒットしていたのであり、その当時、親友I子と二人で売店のアルバイトをした思い出がある。グッズが売れまくったのだが、結局映画そのものは見ない…

僕たちは希望という名の列車に乗った

まだベルリンの壁が築かれる前の1956年に、東ドイツから西ドイツへ亡命した高校生たちの実話を基にした物語。原題は「静かな教室」。映画化を機に、原作となった主人公の手記が『沈黙する教室』と題して日本でも出版されることとなった。見終わって直ちに「…

バジュランギおじさんと小さな迷子

2月に見た映画。 主役のサルマーン・カーンは実年齢が50歳に近いから、若者の役をするのはかなり苦しいものがある。タイトルが「おじさん」だから、おじさん役なのかもしれないが、主人公のバジュランギは年齢不詳の若者おじさんである。 して、物語は。パ…

ブラックパンサー

タイトルを見たときに、てっきりマルコムX関連の話だと勘違いしていたが、本作は黒人帝国の王族たちの活躍を描くSF大作である。 アカデミー賞の美術賞と衣装デザイン賞を獲ったのも当然の、非常に印象深いコスチュームと美しいセットが楽しめる。そのうえ…