吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

2017-01-01から1年間の記事一覧

インビジブル・ゲスト 悪魔の証明

これはすごい。誰でも騙されます。 密室殺人の犯人として起訴された若き実業家ドリアは、圧倒的に不利な状況から奇跡のように無罪を勝ち取れるという常勝弁護士を雇うことになった。彼女の名はグッドマン。ベテランのグッドマンはあと3時間で証人尋問が始ま…

50年後のボクたちは

14歳のひと夏の暴走物語。男子二人のバディ・ロードムービーは愉快痛快。ファティ・アキン監督の作品はこれまでも佳作が多かったが、本作もひと際印象に残る作品となった。「愛より強く」「ソウル・キッチン」よりも本作が気に入った。 運転免許なんてもちろ…

パッセンジャー

宇宙空間の映像が素晴らしく美しいので、これを大画面で見ていたら、さぞやため息をついただろうと思うのが残念。 5000人のパッセンジャー(乗客)と乗務員を乗せた移民船は、120年をかけて移民星を目指し旅の途中にある。乗客乗員は120年間冬眠状態で過ごし…

アトミック・ブロンド

動物の中で、人だけが時間の概念を持つという。それはすなわち未来(死)を予測し、過去を振り返り、記憶と忘却とを繰り返す存在ということだ。 本作の舞台は一九八九年のベルリン。まさにベルリンの壁が崩壊するというその時に、東西国境を行きかうスパイが…

オン・ザ・ミルキー・ロード

巻頭いきなりの動物たちの喧騒は、「ああ、やっぱりクストリッツァ!」と思わせる。どこかわからないが山間の村で、豚が屠殺され、豚の血のバスタブにガチョウが飛び込み、血まみれガチョウにハエがたかり、、、と、あっという間に観客を映画の世界に驚きと…

エル ELLE

ちょっと期待値が高すぎた。 衝撃の問題作との触れ込みが強すぎたのだ。確かにかなりえぐい話ではあるが、衝撃というよりは、ヒロインの不可解な行動が最後までわたしには理解不能で、こんな女っているのかなぁとキツネにつままれたような気分だった。いや、…

マリアンヌ

第2次世界大戦中、工作員として出会った二人が偽の夫婦役を演じて、いつの間にか本当に愛し合うようになる。だが、妻が二重スパイではないのかという疑惑が沸き上がり……。 正統派娯楽作と言うべきか、アクションありロマンスあり戦争の理不尽あり、という作…

エイリアン コヴェナント

「プロメテウス」に比べると面白さは落ちるが、それでも十分面白いのがこのシリーズのよさだ。うちのS次郎(24歳)が「今まで見た映画の中で一番好き。完璧な映画」と絶賛するのが「プロメテウス」。して、その続編はいかに。 結論から言うと、”期待通りに…

ダンケルク

クリストファー・ノーランの映像センスにはみじんも疑いがない。やはりこの人は映画ファンを喜ばせる映像を作るのがうまい。今作は映像だけではなく、音楽の効果も絶大であった。巻頭から大きな音や音楽で人を驚かせびびらせる、戦場の恐怖を観客に体感させ…

わたしは、ダニエル・ブレイク

簡潔で力強く、無駄なところがどこにもない、さすがにカンヌでパルムドールを獲っただけのことはある作品。地味すぎるのが難点か。 一時は引退を表明したケン・ローチがどうしても、とメガホンを取ったという。宮崎駿みたいですな。 かつては揺り籠から墓場…

幼な子われらに生まれ

ステップファミリーを題材にした20年前の原作小説を荒井晴彦脚本で脚色したもの。なんといっても主役の浅野忠信が出色のすばらしさだ。この人がうまい役者であることは今更言を俟たないが、この映画ではさらに美しさが際立っている。巻頭の遊園地のシーンで…

サーミの血

サーミとは、北欧数か国にまたがるラップランド地域の少数民族を指す。一九三〇年代、スウェーデンに住むサーミ人の少年少女たちは親元から離され、寄宿学校で同化教育を受けていた。非文明人として差別されるサーミ人少女のエレ・マリャは学校を飛び出し、…

ラ・ラ・ランド

3・26鑑賞。感動のあまり感想文も書けずにいたら、いつの間にかレンタルリリースされたので、早速ブルーレイを借りて2回見た。返すのが惜しくて3週間も手元に置いたままになってしまったが、本日とうとう返却に至る。いやー、もう素晴らしいの一言。3回見て…

スノーピアサー

鉄道ファン大喜びのアクションSF映画。電車から一歩も出ることなくアクション映画が成立するんだから面白い。 これ以上ありえないぐらいの格差社会が列車内に展開されるという寓話が面白い。元来、一等車二等車などという格差は本国では明治時代からあり、そ…

日本のいちばん長い日

新旧2作を見比べ。 最初に新作を見て、「昭和天皇が格好良すぎる」と苦笑し、名作の誉れ高い旧作を見てみた。で、どっちが優れているとかいう話ならば、旧作のほうが見ごたえがあるだろう。しかし、新作もドラマに重点を置き、娯楽作としてはかなりいい線を…

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

原作の岩井俊二作は未見。あれから20年以上経っているのだから、設定はいろいろ変えてあるはず。岩井の作品は実写の、しかもテレビドラマだったから、映像的にはかなりの制限があったことだろう。今回のリメイクではこれぞアニメ!という素晴らしい光と色彩…

マグニフィセント・セブン

「荒野の7人」のリメイク。懐かしいテーマ音楽も流れます。 昔何度も見たはずの「荒野の7人」を覚えていないものだから、オリジナルとの比較ができないが、この作品単体で見て十分面白い。さらにオリジナルを再見したくなった。ついでにさらにオリジナルの「…

エゴン・シーレ 死と乙女

タイトルロールを演じたノア・ザーヴェトラのイケメンぶりに見とれているうちに映画が終わってしまった。 物語は、寝室で瀕死になっているエゴン・シーレとその妻をシーレの妹が発見する場面から始まる。エゴン・シーレは1918年に28歳で夭折した天才画家だ。…

あさがくるまえに

脳死・心臓移植をめぐる二組の家族の24時間ドラマが静かに描かれる、再生と修復の物語。 昏々と眠る若者の美しい顔がアップになる巻頭。まだ外は暗く、部屋の中もぼんやりしている。彼は恋人のベッドで目覚め、眠る彼女を置いて窓から飛び出し、地面に跳躍…

ハートストーン

アイスランドは人口が33万人の小さな島国だ。その人口で一国を維持するのは大変だろう。主人公の少年たちは監督の自伝的要素を投影されているようだ。思春期の若者の行動は見ていて恥ずかしい。少年少女たちが2人ずつ組みになってちょっとした逸脱行動をして…

ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち

ティム・バートンのカラー爆裂! やっぱりティム・バートンです。このおどろおどろしさ。不気味さ。異形の者たちへの愛。すべてがたいへんよろしい。 舞台が第二次世界大戦中のイギリスというのもクラシックな感じがしてよいし、ドイツ軍の空襲を逃れるため…

お嬢さん

劇場公開版は何か月か前に上映が終了したのだが、特別篇のディレクターズカット版が1週間限定でかかるというので、見てみた。平日の昼間なのにそこそこ入りがいい。韓国版「アデル、ブルーは熱い色」か。女同士のラブシーンの濃厚さにR18指定となりました。…

TAP THE LAST SHOW

水谷豊は本作が監督デビューだそうな。それにしてはよくできている。タップダンサーは本物のダンサーを起用したらしいが、彼らにちゃんと演技をさせているところが偉い。少々大げさな演出もべたな部分も全然気にならなくて、すべてはラスト24分の圧巻のタッ…

おとなの恋の測り方

身長差30㎝以上の男女カップルが織りなす悲喜こもごものラブストーリー。ラブコメだけれど、かなり真面目に社会的差別について描いており、何よりも役者が美男美女揃いなのでとっても気に入った作品。 ある日出会った相手が自分より遥かに身長が低い男性だっ…

誰のせいでもない

ものすごく静かでほとんどなんの盛り上がりもないストーリーなのに、なぜか惹かれてしまった。 カナダ、雪の降り積もる季節に、主人公のスランプ作家トマスは子どもを車で轢いてしまう。と思って冷や汗をかいたのだが、すんでのところで子どもは助かったのだ…

岸辺の旅

最近幽霊づいている黒沢清監督作。幽霊が出てくるといっても別にホラーではないので、ちっとも怖くない。ちょっと「今、会いに行きます」系の雰囲気もある。あれはタイムスリップだったけど、こちらはあの世とこの世を彷徨う話。 主人公は深津絵里が演じるま…

パトリオット・デイ

テロ等準備罪が成立しようかという晩に、テロの映画を見る。 この社会は「テロとの戦い」という非和解の位置に立つことを選び、そのために手段を問わなくなっている。アメリカではテロとの戦いが日常生活にまで及んでいるが、日本では「テロ等準備」なるもの…

光をくれた人

最後のほうはずっと泣きっぱなしで、劇場を出たときには目がはれ上がって恥ずかしかった。おまけに駅に向かう道々、映画を思い出しては涙があふれてくるので困った。今年一番泣いた映画。まあ、泣けるようにできているんですけどね。「パーソナル・ショッパ…

マンチェスター・バイ・ザ・シー

喪失から立ち直ろうとする人々の心の動きを静かに、しみじみと描き出す佳作。それにしても邦題は英語そのままって何の工夫もないのはいただけない。マンチェスターというタイトルにすっかりイギリス映画だと騙されたが、これはアメリカの小さな港町の名称で…

リミットレス

Amazonプライムで無料配信。これまた頭を使わない作品だと思って鑑賞。期待通り頭を使わなかったのでよかった。観客が頭を使わない代わりに、主人公はやたら頭を使うのである。人間の脳は普段ほとんど眠っているのだが、それを覚醒させるとどうなるか、とい…