吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

2015-01-01から1年間の記事一覧

ふたつの名前を持つ少年

イスラエルで発表された小説をドイツ人が映画化する、これが戦後70年の世界なのだろう。第2次世界大戦下のポーランドで8歳のユダヤ人少年がたった一人で生き抜いた、という実話を小説にした原作を読んだ1955年生まれのドキュメンタリー作家のペペ・…

しあわせへのまわり道

映画のポスターにはターバンを巻いたインド人の隣にハンドルを握る白人女性が写っている。思わず「ドライビング Miss デイジー」を連想したように、本作のテーマに移民差別もひそまれている(運転手が男女逆だが)。「夫婦関係に破れた女性を教え諭すインド…

人生スイッチ

この映画は夜行バスを待つ間に見たのだが、眠気も吹っ飛ぶすごい短編集だった。これだけまあ、よくえぐい話ばかり集めたねー。1話ずつにはつながりはなく、すべて1話完結ものである。それぞれに話はよく考えてあって、コメディなんだけれど笑えない戦慄のお…

あの日のように抱きしめて

ヒチコックの「めまい」にヒントを得、ユベール・モンテイエの小説『帰らざる肉体』をもとにしたサスペンス。 非常に地味で落ち着いた展開。夜の場面も多くて、前半はさほどの山場もないため、うっかりすると意識不明になる。最前列のおじいさんは途中完璧に…

リアリティのダンス

ホドロフスキーの少年時代の回想であり、父の伝記でもある。ロシア系ユダヤ人としてチリにやってきた父と「オペラ歌手」の母との生活を描く。 ホドロフスキーにとって父なるものはすなわちマチスモであった。父は共産主義者であり、スターリンの崇拝者だった…

野火

太平洋戦争下のフィリピン戦線。日本兵は既に大量餓死の状況を迎えていた。田村一等兵は肺を病んで野戦病院送りになるが、病院では「肺に穴が開いているぐらいじゃ病気じゃない」と前線に戻るよう命令される。原隊に戻った田村は上官に殴られ、「せめて2日ぐ…

ターミネーター:新起動/ジェニシス 

シリーズは全部見ているわたしのようなファンにとっては、今までのシリーズからどれだけネタを集めてくるのか、というのを見るのが楽しみ。お約束ネタはマストでしょう! というわけで、シュワちゃんが全裸で未来から降臨する場面はもちろん若手の役目に代わ…

ジュラシック・ワールド

たいへんよろしい! うちの子どもたちはこのシリーズを映画館で観たのはもちろんのこと、DVDでも繰り返し繰り返し見たのである。もうセリフまで覚えてしまっているような作品だった。そして、そんなファンの嬉しい気持ちに応えるように、お約束の展開が。シ…

マッドマックス 怒りのデス・ロード

面白い!! なんかバカバカしすぎていい感じ。 友達のM代さんはトム・ハーディにはまってこの映画を既に12回も見ていて、なんとIMAX版を見るために東京日帰りしたという強者(追記・修正:「IMAXは関西で2回みたので、東京にAさんと行ったのは立川シネマシ…

サイの季節

うつつと幻惑とのあわいも不明な、30年にわたる抑圧と虐待に翻弄された男と女の悲劇。イランで政治犯として30年間囚われた詩人の実話をもとに、ゴバディ監督がこのうえなく美しく悲しい映像で、虚ろな復讐を描く。 1977年、まだパーレビ国王が権威を振るって…

アリスのままで

50歳の誕生日を迎え、レストランで家族に祝ってもらった幸せ一杯のアリス。高名な言語学 者としてコロンビア大学で教鞭をとり、世界をめぐって講演を行う彼女がある日、講演の途中で言葉を失う。とっさに機転を利かせて取り繕うが、「語彙」という言葉が出て…

サンドラの週末

カンヌ映画祭大賞にノミネートされた、ダルデンヌ兄弟監督の最新作。 ある金曜日、病休から復職しようとしていた矢先のサンドラに電話がかかってくる。会社は彼女をクビにして、十六人の従業員たちに千ユーロ(十三万円)のボーナスを出すことにしたという。…

パレードへようこそ

昨日エル・ライブラリーで開催した「映画を語る読書会」(熊沢誠著『私の労働研究』第6章を読む・映画を見る)でも絶賛の嵐だった作品。とても素直に作られた感動作。わたしがずっと追いかけてきた労働組合旗の謎を解くヒントが見つかったので大いに興奮した…

嘆きのピエタ

借金返済に窮した人々から取り立てるために、相手を「障害者」にして保険金を詐取しようとする若者の名はイ・ガンド。彼は親に捨てられた天涯孤独の身として育った男だ。残虐無比なイ・ガンドの手にかかって腕を亡くしたり足が不自由になった人々は何人もい…

愛の勝利を ムッソリーニを愛した女

エル・ライブラリーでは熊沢誠著『私の労働研究』の読書会を3回に分けて開催する。その第1回を本日午後からもつ。6章は映画評である。映画通の熊沢誠氏にふさわしく、いずれも素晴らしい作品ばかりが選ばれている。今日の読書会ではその6章について、これま…

インターステラー

昨年末、劇場で見た映画。昨年のマイ・ベスト10入り作品。 前半は少々だるくて途中で寝てしまったけれど、後半、宇宙に飛び出してからは面白くてグイグイと惹かれていった。最後は圧巻の映像が。ここにクリストファー・ノーランの世界観が溢れている。 舞台…

ディス/コネクト

ネット時代にふさわしいスリリングな物語。違法ポルノサイトに登場する青年と彼を取材するテレビレポーター、ネットを通じてイジメに遭う少年、チャットにはまって詐欺にひっかかる主婦、という3つのパターンの話が並行する群像劇。それぞれのパートは登場人…

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密

現在、過去、大過去、の3つの時制をめぐりながら、いつしか天才数学者の孤独と悲しみに胸をえぐられていく物語。かつて同じテーマを扱った「エニグマ」を見たときとは随分印象が異なる。そして「エニグマ」よりもはるかにこちらのほうが面白い。 第二次世界…

ゴーン・ガール

きわめて後味が悪く、はなはだ不愉快でぞっとする作品なのに、最後まで惹きつけられてしまった。 この映画を見たのは去年の年末。半日ずっと講演やシンポジウムを聴いた後、レセプションでお酒を飲んで疲れていたから爆睡するかと危惧したが、なんのなんの、…

アデル、ブルーは熱い色

「あなたに触れたいの」「あなたが欲しいの、毎日」「わたしに触って!」 涙目のアデルが別れた恋人に向ける視線の切なさよ。ありふれた恋のありかを描くこの作品がこれほど切ないのは、ひとえに奇跡のような主演アデル・エグザルコプロスの力だ。ありふれた…

きっと、星のせいじゃない。

ヒロインの可愛らしさに惹きこまれた2時間余り。お涙ちょうだいの難病ものじゃないところがよかった。高校生の癌患者二人の切ない初恋物語だが、どこにも泣ける箇所がなくて、むしろさわやかと言うか、なんであの若さで達観できるのか、と不思議になるぐら…

砂の器

音楽だけは何度も何度も聴いた、名作と言われている作品なのに、今頃やっと見た。午前十時の映画祭、ありがたや。原作は発表当時読んだけど、松本清張の無骨な文体だから、あの小説からこんな綺麗な音楽をつけてもらえる映画が生まれるとは、と驚いたものだ…

アメリカン・スナイパー

なるほど、アカデミー賞の候補になるだけのことはある。なにしろ題材が「イラク人テロリストを160人以上殺した英雄」だし。つかみの編集も抜群によかった。天才的なスナイパー、主人公クリス・カイルが照準を定めているのは10歳ぐらいの少年とその母親らしき…

ソロモンの偽証

前編を見終わったとき、後編が待ちきれないほど面白いと思った。その興奮に比べると後編は動きが鈍い。 学校内で起きた、生徒の転落死は自殺か事故か、はたまた殺人か。真相を求めて生徒たちが「学校裁判」を始めるという前代未聞の物語。 雪のクリスマスイ…

ラッシュ/プライドと友情

すっかりこちらのブログはご無沙汰になってしまっていますが、またボチボチと映画の感想をつづっていきます。過去に見た映画のことをアップできていないので、遡及していきますが、既に記憶が薄れているため、どれだけきちんと書けるのか心もとないところで…

アフガン零年

タリバン政権下のカブールに住む、ある少女の不幸で悲惨な物語。ほんの数年前まで、アフガニスタンはタリバンが支配するイスラム原理主義の国だった。では今はタリバンがいなくなって幸せな国になったのだろうか…… 戦争で男手がいなくなった家庭では、女達が…

2014年のマイベスト

謹賀新年 原稿の締め切りに追い越されているのでベスト10を選出している余裕はないのだが、まあ、これくらいはえっか。 最近は日常雑記などはfacebookに書いているので、こちらのブログはさっぱりご無沙汰だった。しかしfacebookはアーカイブ機能が弱いので…