吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

キャッシュトラック

https://eiga.k-img.com/images/movie/95002/photo/5cd209a26ddc00ae/640.jpg?1629273524

 ついこの前まえ映画館で上映していたのに、もう配信されているなんて!

 それはともかく、この手のアクションものの演出はやっぱりガイ・リッチーです。うまいわ。時間軸をいじって、「あの場面は実は…」という見せ方をしていくのが観客の興味をそそり、同じ場面を何度も見せる手腕はなかなかのもの。こういう演出じたいは昨今珍しくもないが、やはりうまいと思わせるものがある。

 人物の顔を見分けられないと混乱するんだけれど、そうでなければ、結構な数の登場人物をうまく使い分けて配置している。裏切者だの臆病者だのといろいろ登場するので、飽きない。というより、人物把握にこちらの脳細胞をかなり消費するので、そこは疲れる。あと、女性警備員が活躍するかと期待させておいてなにも活躍できずに終わるのが大変残念。

 で、肝心のストーリーはというと、ブラックフライデーと言われる大売り出し日に集まる1億8000万ドル強奪作戦を立てた悪党たちがいて…。という、強盗団と対峙するジェイソン・ステイサム大活躍のアクション活劇。現金強奪なんていう商売はそろそろ成り立たなくなるだろうね、クレジットカード社会が進展すれば。

 ジェイソン・ステイサムがなんで強盗団とやりあおうとしたのかというと、それは息子を殺された復讐なのだけれど、たとえ復讐がかなったって息子は帰ってこないんだよ。そこがこの物語の悲しいところで、やっぱり人を殺したってスカっとなんかしない。登場場面の最初から謎めいた人物として観客の前に暗い顔を見せるステイサムは、最後まで寡黙で陰鬱だった。

 ステイサムのアクションの切れはさすがだが、全体に地味め。FBIがなぜか無法地帯の番人みたいになっているのは謎だ。何とも言えない哀切漂う幕切れがすっきりしなかった分、余計に心に残る。(Amazonプライムビデオ)

2021
WRATH OF MAN
アメリカ / イギリス  Color  119分
監督:ガイ・リッチー
製作:ガイ・リッチー、アイヴァン・アトキンソン、ビル・ブロック
脚本:ガイ・リッチー、アイヴァン・アトキンソン、マーン・デイヴィス
オリジナル脚本:ニコラ・ブークリエフ、エリック・ベナール
撮影:アラン・スチュワート
音楽:クリストファー・ベンステッド
出演:ジェイソン・ステイサム H
ホルト・マッキャラニー ブレ、ジェフリー・ドノヴァンジョシュ・ハートネット、ラズ・アロンソスコット・イーストウッドアンディ・ガルシア

ブラックバード 家族が家族であるうちに

https://eiga.k-img.com/images/movie/94797/photo/99b49eeec12306e2/640.jpg?1620624587

 原作は戯曲かもと思ったら、ビレ・アウグスト監督作のリメイクであったか。なるほどと納得。たぶん、原作よりかなり明るく変えられているのではなかろうか。

 安楽死をめぐる映画はここ10年ほどで増えているように思う。その中でも本作は突出して明るく、鑑賞後の味わいがしみじみしている。自死を決意した本人がまだ完全に老人ではなく、余力を残して逝こうとしていることがその要因だろう。家族に愛され囲まれて逝くという、ある意味最上の幸福感に満ちた最期を迎えることができる、経済的にも満ち足りた一部の特権的な人々の話とも言える。

 映画の中で病名は明らかにされなかったが、安楽死を選ぼうとするリリーはあと数か月で唾液も飲み込めなくなり、胃ろう生活になるだろうと医師である夫のポールに宣告されている。そんなとき、家族が呼び集められ、海辺の瀟洒な家で最後の3日間が始まる。映画は淡々とこの美しい邸宅と海辺を映しだし、集まった家族たちとの最後の晩餐を楽しむリリーの幸福な姿が描かれる。既に彼女の右手は動かないし、介助なしには歩けなくなっているが、リリーは団塊世代の女性らしく自由で自立した考えを持ち、親友のリズを臨終の家族団らんにも呼んでいる。

 リリーの家族は長女とその夫と息子、次女とその同性愛のパートナーの5人。リリーの夫はサム・ニールが演じていて、知的で魅力的な老人であり、とても若く見える。リリーはスーザン・サランドン。相変わらず大きな目の力が強く、とても美しい。もうすぐ亡くなってしまうような女性には見えない。長女と次女の性格の違いも明確に描かれていて、役者が持ち味を存分に発揮している。

 物語は淡々と進み、穏やかに安楽死のその日を迎えるかと思われたその時になって波乱が起きる。母リリーの決心を揺るがせようとする娘たち。一家の秘密が暴露される。このスリリングな展開に息を飲む。

 見終わってみたら、結局はリリーという意志の強い女性が自分の生きたいように生き、死にたいように死んだ、究極のわがまま映画だ。なのにとても爽やかな気持ちになれるのはなぜだろう。この世代特有の自由奔放さがあり、反道徳的なふるまいやあっけらかんとした家族の台詞が日本人から見れば羨ましくてしかたがない。こうやって団塊世代は経済的に恵まれ、自由を謳歌し、好き放題やって去っていくのか。遺される者たちのこれからの生きざまに大きな影響を確実に与えていくだろう結末だが、美しい邸宅の周囲に漂う寂寞感に満たされていくその風情が目に焼き付く。(レンタルDVD)

2019
BLACKBIRD
アメリカ / イギリス  97分
監督:ロジャー・ミッシェル
製作:デヴィッド・ベルナルディほか
脚本:クリスチャン・トープ
オリジナル脚本:クリスチャン・トープ
撮影:マイク・エリー
音楽:ピーター・グレッグソン
出演:スーザン・サランドンケイト・ウィンスレットミア・ワシコウスカ、リンゼイ・ダンカン、サム・ニールレイン・ウィルソン、ベックス・テイラー=クラウス、アンソン・ブーン

火口のふたり

https://eiga.k-img.com/images/review/3700/photo/ed3aa69b478e8294.jpg?1565665045

 タイトルバックの写真からしてまるでポルノ。そのあとも「まあ、なんていやらしい映画でしょう」と思わせる場面が続出するので誰が撮ってるんだと調べたら荒井晴彦。なるほど、と納得。当然にもR18+だった。

 登場人物はほぼ二人だけ。従兄妹どうしの二人は血縁があるからかどうかはわからないが、とにかく濃いセックスに浸りまくる。親戚というだけではなく幼いころからきょうだいのように育ってきた二人はほぼ近親相姦関係とも言える。この二人は若いころ秘密の恋人同士だった。やがて男が結婚し、離婚した。女は5日後に結婚式を挙げる。そして女からの誘いに男が乗って、女の結婚式までの5日間、二人はセックス三昧の日々を過ごすことにした。

 「わたしの身体、懐かしくない?」

 そんな誘いの言葉を吐けるのは女がまだ若いから。「けんちゃん」「なおこ」と呼び合ういとこ同士の親密な関係は二人の肉体を通して一層濃くなる。新婚家庭の新居になる家にほかの男を呼び入れてしまうなんて、なんという背徳! 新婚家庭の新しいベッドに他の男を引きずり込んで、「筆おろしが終わった」と嬉しそうに言う直子、なんという背徳!

 エマニエル夫人かい、と言いたくなるような場面とか、いろいろとセックスにまつわる話が延々と繰り返されていくが、この二人、この先どうするつもりだろうという先の見えない好奇心にかられて面白く見てしまう。食事の場面も美味しそうで、思わず「あの料理、作ってみようかな」と思わせるものがある。人は食欲と性欲の生き物なんだと痛感した。

 しかし結末があれだったとは驚くしかない。ラストシーンの富士山の絵が笑える。これはひょっとしたらものすごい傑作なのかも知れない。ちなみに2019年度キネマ旬報ベスト1。(Amazonプライムビデオ)

2019
115分
監督:荒井晴彦
製作:瀬井哲也ほか
原作:白石一文 『火口のふたり』(河出文庫刊)
脚本:荒井晴彦
撮影:川上皓市
音楽:下田逸郎
出演:柄本佑瀧内公美

水俣曼荼羅

https://eiga.k-img.com/images/movie/93645/photo/e879b95b0cadbb4b/640.jpg?1634603342

 6時間を超える上映時間。途中2度の休憩をはさんで、三部作に分かれている。劇場では都合6時間半かけて見ることになる壮大なドキュメンタリーだが、まったく飽きることがない。その理由は、この作品が曼荼羅というタイトルにふさわしく大勢の登場人物たちに肉薄し、時に違和感を与えるような描写も含めて、観客を逃がさないからだ。心地よく映像や音楽が流れる作品ではない。心に棘が刺すような瞬間もあり、冷汗が出る思いにかられる場面もあり、水俣病患者の闘いに傍観者ではいられない「居心地の悪さ」をも感じてしまう。かといって、決して堅苦しい映画ではない。笑いあり、涙あり、原一男監督もインタビュアーの立場をうっかり踏み越えて登場人物の一員になってしまう愛嬌ある場面もあり、終わってみれば6時間半が過ぎていた、まだ続きが見たいと思わせるドキュメンタリーである。

 水俣病は終わっていない。そのことを伝えるために撮影が始まった本作は、15年をかけて撮影され、その間に被写体となった方々の何人かが亡くなってしまった。

 映画はタイトル画面に続いて、「水俣病関西訴訟の原告勝利」に沸く最高裁判所の玄関前という高揚した場面から始まる。2004年、国と熊本県を相手取って起こされていた、患者団体からの損害賠償請求訴訟で被告の責任が認められたのだ。続いてその判決を受けて原告団環境大臣と交渉する場面に移る。大臣が小池百合子であることに年月の流れを感じてしまった。今や東京都知事の彼女は、この頃から狸ぶりを発揮していたことがわかる。

 6時間の映画を紹介し始めたら何文字あっても足りない。まずは映画を観て、この映画に登場する個性あふれる人々との邂逅を堪能してほしい。原監督には「映画は感情を描くものだ」という信念がある。その通り、多くの患者や支援者や医者の感情がむき出しになり、観客は共感を覚えたり反感を抱いたり、ときにその喜怒哀楽に翻弄されるだろう。厳しく追及される側の役人たちに怒りを感じるか同情するか、それもまた観る者の立場によって異なるし、原監督の撮り方やインタビューの方法に異議を唱える向きもあるだろう。だが、それだけ多くの引き出しを持っていることがこの作品の最大の魅力と言える。

 恋多き女、坂本しのぶは胎児性水俣病患者で、心優しき男性に出会った瞬間に恋をして常に失恋している悲しい日々を送る。震える手で舟のペンキを塗っているのは小児性患者の生駒秀夫で、訥々とした口ぶりでしゃべるこの人の優しさと誠実さは全身からにじみ出ている。90歳を過ぎても裁判闘争を続ける不屈の闘志、川上敏行は執念の塊として屹立している。患者以外にも、水俣病の病理を解明すべく何十年も研究を続け、関西訴訟を勝利に導く学説を唱えた浴野教授と二宮教授は、ある種オタクっぽい魅力に満ちた医者・学者だ。ほかにも多くの魅力あふれる人々が登場する。と同時に、人々の描き方に製作者が気づかないジェンダーバイアスが潜んでいないだろうか。

 時に科学映画のようであり、時に恋愛映画のようでもあるこの作品の最後近く、仙女のような石牟礼道子が登場する。既に病が重いのだろう、車椅子に座り、不安定に左右に揺れる頭から絞り出すように発せられる言葉の重みにハッとさせられる。「許す」という言葉が石牟礼の口からこぼれるとき、その苦悩の意味に想いを馳せる。「怨」の旗を立てた患者たちの一揆の姿が一瞬、亡霊のように蘇る。忘れられない場面だ。

 ただ一つ残念なのは、これほど長い映画なのに労働組合が登場しないこと。原因企業であるチッソの労組は、「何もしなかったことを恥とし、水俣病と闘う」と述べた「恥宣言」で有名だが、その事実への言及がなかった。この映画が撮影された時代には既に労組は解散しており、当事者のインタビューが撮れなかったのかもしれない。あるいは、本作の本旨とは離れていたのだろうか。

 映画の公開に合わせて、『水俣曼荼羅製作ノート』という255頁の本が刊行された。映画のシナリオが完全採録されており、同書が貴重な記録となっている点も含めてお薦めしたい。原一男は同書の前書きを「こうなったら、もう、観るしかないのだ、と思ってもらいたい」という言葉で締めくくっている。そう、観るしかない。6時間半の体験は正月映画にふさわしい。じっくり腰を据えて、劇場で見てほしい。観終わったら必ず誰かと語り合いたくなるから。 (機関紙編集者クラブ「編集サービス」2021年12月号に掲載した拙稿に大幅追記)

2020
日本  Color  372分
監督:原一男
エグゼクティブプロデューサー:浪越宏治
プロデューサー:原一男、小林佐智子、長岡野亜、島野千尋
撮影:原一男
編集:秦岳志

燃ゆる女の肖像

https://eiga.k-img.com/images/movie/91144/photo/fff6210f04a42218/640.jpg?1599028443

 様々に小さな伏線を敷き、実に機微に富んだ心理描写をしている作品であり、見終わってから胸にじわっと染みてくる。

 「セリーヌ・シアマがカンヌで脚本賞を獲った作品、観たか?」と息子Y太郎(30歳、在仏)に尋ねたら、即座に「ああ、シアマか、彼女の映画は政治性が強すぎて好きじゃない。全然面白くない」と一刀両断。そうかなあと思いながら見始めた本作、全然政治的アピールは強くなく、むしろ抑え過ぎの感じすらする、とても静かで落ち着いた作品だ。食わず嫌いはもったいないよ、とYに言いたい。

 映画は、18世紀の女どうしの恋愛を抑えた筆致で静かに描く。ノルマンディの孤島の海岸の風景がうすら寒く寂しく美しく、映画そのものが絵画のように撮られている。ミラノに娘を嫁がせようとしている伯爵夫人に雇われた若き女性画家が、過去を回想して物語が始まる。彼女の名はマリアンヌ、孤島に寂しく住む伯爵夫人とその娘の邸宅にやってきた。縁談を嫌がる娘エロイーズは雇われた画家に自分の肖像画を描かせない。その肖像画はつまり現代の見合い写真だ。最初の画家がクビになり、やってきたのがマリアンヌだったのだが、正体を隠してエロイーズの散歩係として雇われたことになっているため、マリアンヌはひたすらエロイーズの顔を盗み見ている。かくして、見る・見られる映画が始まる。

 視線が交わり、女たちの瞳が妖しく見つめあうなんといえない緊張感に満ちた場面が続く。いったいいつ正体がばれるのだろうと観客はかたずを飲むのだが、意外とあっさりマリアンヌは真実をしゃべってしまう。そこからは二人の若く美しい女たちが協力して肖像画を仕上げていくことになる。

 この映画には男はほとんど登場しない。最後に一瞬顔を見せる端役が居るだけ。女たちの友情と愛情だけで完結する珍しい物語だ。貴族の屋敷なのに召使は一人しか登場せず、その召使とマリアンヌとエロイーズはまるで親友同士のように親しい。そして、わずか数人と数日の女たちの姿の中に、愛と性と生と死を描く、見事な脚本だ。

 オルフェウスとエウリディケの冥府神話や幻影を散りばめ、抑圧された時代の女どうしの悲恋が燃え上がる。互いの姿の中に我が身の姿を押しとどめ、永遠の記憶を刻み付ける自画像を描く場面など、数え上げればきりがないほどの名場面が続く。この映画を先入観に邪魔されて鑑賞しないというのはまったくもったいないことだ。Yには絶対に見るように伝えよう。(レンタルDVD)

2019
PORTRAIT DE LA JEUNE FILLE EN FEU
フランス  Color  122分
監督:セリーヌ・シアマ
製作:ベネディクト・クーヴルール
脚本:セリーヌ・シアマ
撮影:クレア・マトン
出演:ノエミ・メルラン、アデル・エネル、ルアナ・バイラミ、ヴァレリア・ゴリノ

岬の兄妹

https://eiga.k-img.com/images/movie/90085/photo/1e104d13ffbf0cdb/640.jpg?1547093033

 足に障害がある兄と、知的障害のある妹の極貧生活。母親も亡くなり、電気も止められた掘立小屋のような家に暮らす二人は、食べるに窮してとうとう売春を始める。妹の真理子は嫌がっていないし、これで儲かるなら、と兄は「1時間1万円で最後までできます」というチラシを大量に作って配布する。
そんな二人の生活が描かれる最悪の作品なのに、真理子の性欲や快楽を含めて、どこかほのぼのした雰囲気や顔が引きつりそうな笑いも漂う。兄も極悪人というわけではなく、生活のためにやむなく始めたことだったのだが、警察官の友人から叱責されて開き直る。ここで普通なら警官が生活保護を紹介してやるとかいったことがあってもよさそうだが、映画では彼らが公的扶助に頼ることはない。あくまで二人で生きていこうとする姿が健気で、また同時に頭が悪すぎる二人の生活に見ているほうもイライラが昂じてくる。

  こういう現実はあるのだろう、救いのない日々のなかで、それでも懸命にもがいていく人間という生きざま。何かを覚悟して引き受けるというよりは、流されながらも行き当たりばったりでもとにかく絶望的なもがきをもがく。

 知的障害者を演じた和田光沙の演技が息を飲むほどである。日本ではこういう映画はタブーに類するのではないかと思われるが、いくつかの映画賞を受賞している。ラストシーンの衝撃的な美しさは心に残る。岬に佇み、潮風を受ける真理子のぞっとするほど色気のある、そして何かを諦念したかのような姿は忘れられない。(Amazonプライムビデオ)

2018
日本  Color  89分
監督:片山慎三
製作:片山慎三
脚本:片山慎三
撮影:池田直矢、春木康輔
音楽:高位妃楊子
出演:松浦祐也、和田光沙、北山雅康、中村祐太郎

返校 言葉が消えた日

https://eiga.k-img.com/images/movie/94219/photo/8ade10b3130f4815/640.jpg?1626837782

 社会派ホラー映画という触れ込みに惹かれて見始めたのだが、これは台湾の黒歴史に向き合った作品として印象に残った。こういう映画が中国本土では作れないだろうと思うと悲しいし、日本ではもっと難しいだろうと思うと憂鬱になる。

 「学校の怪談」みたいな映画やなあと思いながら見ていたが、原作はゲームだと後から知って驚いた。世界的にヒットしたゲームだそうな。時代を独裁政権下に設定し、夜の学校に閉じ込められた美少女生徒とその後輩男子が必死に学校の外に逃げ出そうとするがなぜか逃げられず、悪夢のような恐ろしい目に遭うという展開。学校の中で開かれていたであろう教師たちの秘密の読書会が当局に知られることとなって先生たちが拷問の末に殺されてしまったとか、おどろおどろしい化け物が徘徊するとか、いろいろと血なまぐさい。

 しかも教師と生徒の恋愛など、ほろりとさせる要素もあり、恋と嫉妬と青春物語、みたいな要素に権力の弾圧を絡めるという力技。なんといっても主演のワン・ジンが超絶清純派的可愛らしさで画面いっぱいにその涼しげな目元を見せてくれるものだから、うっとり。でも映画は怖い。ホラーが苦手なわたしにはこの程度の映画で十分怖い。

 かつての言論弾圧の時代が再び来ないことを祈る。ラストシーンに漂う切なさはなかなかのもの。(レンタルDVD)

2019
DETENTION
台湾  Color  103分
監督:ジョン・スー
製作:リー・リエ、リー・ヤオフア
脚本:ジョン・スーほか
撮影:チョウ・イーシェン
音楽:ルー・ルーミン
出演:ワン・ジン、ツォン・ジンファ、フー・モンボー、チョイ・シーワン、チュウ・ホンジャン