吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

ジョジョ・ラビット

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 ウサギも殺せない臆病な少年ジョジョは周囲の少年たちから「ジョジョ・ラビット」と囃されていた。そんな心優しいジョジョヒトラーに心酔し、密かに総統を心の友として暮らす日々を送っていた。

 父が出征し、美しい母と二人で暮らすジョジョにとってはヒトラーこそが父の代替存在だった。その総統はしばしばジョジョの前に突然現れ、ジョジョを叱咤激励する。自分にしか見えない幻影のヒトラーととともにジョジョは悩み成長する。

 そんなある日、自宅に密かに美しいユダヤ人少女が匿われていることを知ってしまった彼は、そのエルサという少女と語り合うことによって彼女に惹かれていく。しかも、少女を匿っているのが愛する美しい母だとわかってそのこと自体を隠しておかねばならないジョジョは大混乱に陥る。混乱しながらもなんとかつじつま合わせをしてエルサと交流を続ける。

 コメディなのかシリアスなのか微妙な演出なのだが、子ども視線でヒトラーを見ればああ見えるのか、というのがよくわかる映画だ。しかし本当にかつての少年たちにはそう見えたのかは不明だ。

 愛する母親の真実の姿を知り、そしてその末路を目撃した彼は、大人になっていく。母の靴ひもを結ぶこのシーンは心をかきむしるような優れた場面だ。少年の成長にこれほど大きな犠牲が必要とは! ナチスものはもう飽きたという人にこそ見てほしい。(レンタルBlu-ray) 

2019

ドイツ / アメリ

  Color  109分

監督:タイカ・ワイティティ

原作:クリスティーン・ルーネンズ

脚本:タイカ・ワイティティ

出演:ローマン・グリフィン・デイヴィス、トーマシン・マッケンジータイカ・ワイティティサム・ロックウェルスカーレット・ヨハンソン

TENET テネット

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 去年の10月11日、3年ぶりに帰国した息子Y太郎と一緒に映画館で鑑賞。もちろんIMAXで見たけど、意外に画面の大きさを実感することがなかった。とはいえ、音響の迫力はお尻から響いてくる感じで体感できた。

 物語はノーラン監督が大好きな、時間軸いじりたおし系。いきなりウクライナの劇場でテロが起きる。そこへやってくる特殊部隊の警官隊たち! しかしこれが偽のテロ事件であり、潜入していたCIA捜査官が謎の男たちに捕まって拷問を受ける。でもこれが実はテストだったとか? なんだかよくわかりません。つじつまが合っているのかどうか不明なまま物語はすいすいぐいぐいと進んでいく。

 CIAがらみの研究所には未来から送られてきた時間逆走器具があって、それが第三次世界大戦を阻止するためには必要なんだかとかなんだかんだ。全然話が見えてこなくてさっぱりわからないんだけれど、とにかくマッチョな捜査官(デンゼル・ワシントンの息子だって!)が不死身の大活躍。悪者はロシアマフィアの武器商人で、今はロンドンに住んでいる大金持ちのアンドレイ・セイターということまでは調べがついている。で、その超美人の妻に近づくことを指令された捜査官は、そのために空港の倉庫に収納されている絵画の贋作を燃やすという大胆な作戦に出る。

 このあたりの理屈がよくわからない。なんでそんなことのためにそんな大掛かりなことをするわけ?! 飛行機を倉庫に突っ込ませるんですよ、並大抵じゃないね。ミュージアムの収蔵庫によく使われているハロゲンガスが突出する場面を初めて見たわ! この飛行機突入大作戦で撮影に本物の飛行機と本物の空港を使ったというから恐れ入りました。

 あとは自動車逆走カーチェイスとか、見たことのない場面を見せてくれるのはいいんだけれど、やたら派手派手しいだけであんまりおもしろくない。ただまあ、どうやって撮ったのかものすごく不思議で、特にYはそこに興味津々だったようだ。

 何といっても見せ場はロシアマフィアのセイター親分の妻! 背が高すぎる! 画面からはみ出しそうだし(笑)。で、その背の高さというか足の長さを生かしたスリリングな場面があって思わず笑ってしまった。よくぞこの場面を考えてくれましたね、ここが最高によかった。ところでこの人、背が高すぎて足が長すぎてスーツが似合っていない。モデル出身なのになんということでしょう。

 前半の伏線がクライマックスで回収されていくところは爽快なんだけど、結局タイムパラドクスは解決できていないと思う。そもそも時間逆行の理屈がまったくわからない。わたしはさっぱり理解できなかったのに、Yは分かったらしくて、あとで解説してくれた。でも解説されてもなお納得できない。むううう。

 そうそう、主人公に名前がなかったことにあとからパンフレットを読んで気が付いた。

 映画を見た後はユニクロで買い物して、贅沢にも二人で喫茶店で一服。英国屋に入ってケーキセットとワッフルセットを注文した。ワッフルがものすごく美味しかったので感動したわ、たまにはいいね、こういうのも。

2020
TENET
アメリカ Color 150分
監督:クリストファー・ノーラン
製作:エマ・トーマスクリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
音楽:ルートヴィッヒ・ヨーランソン
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、ロバート・パティンソンエリザベス・デビッキ、ディンプル・カパディア、アーロン・テイラー=ジョンソンマイケル・ケインケネス・ブラナー、マーティン・ドノヴァン

5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~

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 95%の視力を失いながらもその事実を隠して五つ星ホテルの研修生になった若者の実話をもとに作られた。これが実話というのはただ驚くしかない。

 スリランカ人の父とドイツ人の母の間に生まれたサリヤは15歳の頃に視力をほとんど失ってしまう。しかし彼はホテルマンになりたいという夢を諦めきれず、目がほとんど見えないことを隠して一流ホテルの研修生に採用された。そして過酷な研修の最後に筆記と実技の試験が待ち受けているのだが、サリヤ(愛称サリー)はそこまでたどり着けるのだろうか。

 コメディなのだが、ほとんど目の見えないサリーの一挙手一投足に観客はハラハラするというスリルもたっぷりだ。主人公を演じたコスティア・ウルマンはドイツ人とインド人のダブルなので、見た目もまさにぴったり。そのうえイケメンなのでサリーが女の子にもてるという設定に説得力がある。

 サリーは頭がよく、心が優しいために周囲に助けてもらうことができる。彼は一緒に研修生として採用されたお調子者のマックスとなぜか意気投合して、というよりもマックスを助けてやって、二人は仲良くなる。落ちこぼれのマックスにサリーが救いの手を差し伸べることによって今度はマックスがサリーを助けるようになる。サリーの目が見えないことを知った少数の人たちは誰もがサリーを心配し、見守り、そっと手助けするようになる。それもこれもサリーが尋常ではない努力を重ねていることを知っているからだ。

 わたしはこういう話に弱い。ハンディのある人が驚異の努力の末に周囲に支えられ、自分もまた周囲の人たちを助けている、そういう支え合いの理想を描いた作品はストレートにわたしの琴線に響いてくる。

 ただし、みんなに助けてもらったからといって仕事がうまくいくほどにホテルマンの仕事は簡単ではない。厳しい指導教官にイジメとも思えるほどの課題を押し付けられ、しまいにはサリーも癇癪を起す。この指導教官のキャラクターは当然と言えば当然だ。五つ星ホテルの副支配人と思しき彼は、研修生を厳しく指導するのが仕事なのだから。

 サリーはとある女性の声を聴いただけで彼女に恋をする。何度かデートも重ねてうまくいように思えた二人だったのに、やはり目が見えないことがばれた途端に破局が訪れてしまう。恋にも仕事にも疲れてしまったサリーに明るい未来はあるのだろうか?!

 サリーの研修生ぶりは多くの失敗だらけで、これではクビだろふつう、と思われることが続出する。最後の最後まで画面から目が離せないし、観客はサリーを心から応援しながら映画を見ている。自分ならここでめげるだろうとか、自分ならとっくに本当のことを話すのになあとか、わが身に引き付けてサリーの人生の分かれ道を共に歩む気持ちになる。

 主人公サリーが書いた自伝が原作という。それも読んでみたいと思った。(Amazonプライムビデオ) 

2017
MEIN BLIND DATE MIT DEM LEBEN
イツ Color 111分
監督:マルク・ローテムント
製作:タニア・ツィークラー、ヨーコ・ヒグチ=ツィッツマン

原案:サリヤ・カハヴァッテ
脚本:オリヴァー・ツィーゲンバルク、ルート・トマ
撮影:ベルンハルト・ヤスパー
音楽:ミヒャエル・ゲルトライヒ、ジャン=クリストフ・“ショーヴィ”・リッター
出演:コスティア・ウルマン、ヤコブ・マッチェンツ、アンナ・マリア・ミューエ ラウラ、ヨハン・フォン・ビューロー

靴ひも

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 イスラエルエルサレムを舞台とする、老いた父と発達障害のある息子とのユーモラスで切ない物語。

 主人公ガディは38歳にして母親に急死された。母の葬儀でたどたどしく追悼の祈りを読み、泣き崩れるガディの姿が冒頭で印象的に描かれる。そして、30年前に自分と母を捨てた父と共に暮らすことになるのだが、皿に載せた食べ物の位置や食事の時間や様々なことに独特のこだわりがあるガディと父は何かと衝突する。

 自動車整備工場を経営する父は腎臓を病み、やがて人工透析が必要となる。そのころにはガディと父はようやく互いの存在に折り合いがついてきたところだったのだが、父は「腎臓移植しないと先は長くない」と医者に宣告されてしまう。父の病状を知ったガディは自分の腎臓を提供したいと切望する。しかし、知的障害のあるガディは腎臓移植の危険を認識できないからと、臓器移植委員会から拒否される。嘆き悲しむガディと父に突破口は開かれるのだろうか。

 本作はイスラエルでの実話に基づいているという。また、ゴールドヴァッサー監督の息子にも障害があり、本作でのガディの様々なしぐさや言葉遣いのディテールに実体験が生かされている。

 ガディは歌が大好きで、自分では歌手だと名乗っている。誰とでも仲良くなってしまう明るいガディは近所の食堂でも人気者だ。そのウェイトレスに恋したガディは彼女と結婚したいと父に告げるが、彼女が黒人だからと反対される。

 この映画は、人種差別やアラブ人蔑視といった社会問題にもさりげなく触れている。あまりにもさりげないから、それはもう日常的に深く根付いてしまったものなのだろう。善人ばかりが登場するように見えて、実はそんな人々の身勝手さや差別意識もあぶりだす。

 ガディの父を思う気持ちの強さに思わず涙するような場面や、希望に心が洗われるような場面もある。その意味では、タイトルの靴ひもは重要なアイテムだ。ガディは3回靴ひもを結ぶ。一度目は結べなかった。二度目もまた。三度目に靴ひもに指をかけた時に、その成長が現れている。

 一方で、障害者の自立や生きる意味について、腑に落ちない思いが湧いてくる。一つは、施設で暮らすことの是非。もう一つは臓器を提供しようとする自己犠牲が、〝誰の役にも立てない障害者が唯一できること〟だとしたら、人としての尊厳はどこにあるのかという疑問だ。

 見終わった後、様々な感情が渦巻き、誰かと語り合いたくなる映画。 

2018
LACES
イスラエル Color 103分
監督:ヤコブ・ゴールドヴァッサー
脚本:ハイム・マリン
撮影:ボアズ・イョーナタン・ヤーコヴ
音楽:ダニエル・サロモン
出演:ネヴォ・キムヒ、ドヴ・グリックマン、エヴェリン・ハゴエル、エリ・エルトーニョ、ヤフィット・アスリン

フォードvsフェラーリ

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 車には全く興味がないのに、なぜかこの映画には惹かれていた。劇場で見損ねたため、Blu-rayで鑑賞。

 で、1960年代にアメリカ車のフォードとイタリア車のフェラーリが争ったという実話がハリウッド映画になる以上は、アメ車が勝ったに違いないのだ。タイトルを見ただけで勝敗はわかっている。そのうえ実話なんだから、事実は動かしようがない。しかしその分かりきっている結果に向かっていかに演出するかがこの映画のみどころ。そういう点でいえば、クリスチャン・ベイルの相変わらずの、演技の神様が下りてきましたみたいななりきりぶりがこの映画を面白く見せている。

 しかしなんといっても最高に観客を興奮させるのはル・マン耐久24時間レースの再現シーンだ。この場面のカメラの動き、小気味よい切り返し、感情を爆発させるケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)の表情など、手に汗握る。

 ところで、ケン・マイルズの妻がえらく品のあるきれいな人だなあと思っていたら、カトリーナ・バルフだった。とてもじゃないが、田舎の町工場の妻には見えない! でもそう見えるようにすごく地味に化粧しているのが大変好ましい。

 この映画は悪役があまりにもはっきりとわかりやすいため、本当に実話なのかと疑いの目を持ってしまった。実在の人物をあからさまに悪く描写して本人や遺族からクレームがこないのだろうか。それとも彼は架空の人物なのだろうか。(レンタルBlu-ray) 

2019
FORD V FERRARI
アメリカ Color 153分
監督:ジェームズ・マンゴールド
製作:ピーター・チャーニン
ジェンノ・トッピング
ジェームズ・マンゴールド
脚本:ジェズ・バターワース、ジョン=ヘンリー・バターワース、ジェイソン・ケラー
撮影:フェドン・パパマイケル
音楽:マルコ・ベルトラミ、バック・サンダース
出演:マット・デイモンクリスチャン・ベイルジョン・バーンサルカトリーナ・バルフ、トレイシー・レッツ、レモ・ジローネ

狼をさがして

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 3度目の緊急事態宣言のせいで、大阪の映画館はほとんどが休業中だが、この映画を上映しているミニシアター「シネ・ヌーヴォー」は開館中なので、ぜひ映画館で見てほしい。

 「狼」とは、1974年に三菱重工ビルなどを爆破した東アジア反日武装戦線のグループ名を指す。この映画の監督は韓国人だが、釜ヶ崎でドキュメンタリーを撮っているときにその存在を知り、「狼」たちのことを知りたいと思ってインタビューを重ねる旅にでた。果たして狼は見つかったのだろうか。

 東アジア反日武装戦線について、特に大道寺夫妻について知りたければ、松下竜一の名著『狼煙を見よ』や大道寺将司『明けの星を見上げて』などの獄中記を読むことを勧める。この映画は、そういう基本情報を知っている観客からすれば、物足りない。事件から何十年も経っている今こそ、被害者や遺族の声を知りたいと思うのだが、そういったインタビューがない。ここが残念だ。

 しかし、ネットにあふれる空疎な「反日」という言葉の真の意味を奪還しようという試みの始まりではないか、という期待も一方で抱かせる。大道寺たちの闘争は誤りであったと本人もすでに認めている通り、爆弾闘争は決してやってはいけないことだ。なぜ彼らは間違えたのか? 何を間違えたのか? その問いかけが今、再び始まった。

 大地の風景が車窓から広がる北海道の美しく雄大な画を見ながら、「この映画はいったい何なのだろう、なんと牧歌的な風景を切り取っているのだろう」とわたしは不思議な感覚にとらわれていた。狼は見つかるのか? どこまで行けば狼たちは見つかるのだろう。大道寺将司は既に亡く、妻のあや子も海外に逃亡したまま生死も不明だ。

 心優しき若者たちが犯した罪は、日本帝国軍がアジアの人々を殺戮した罪に比べれば大過ではない? そうだろうか。2000万人を殺した罪と、8人を殺した罪を秤にかけられるだろうか。たった一人のかけがえのない人の命を数字で数えないでほしい。わたしの頭はぐるぐる回る。

 高度経済成長の時代に、三菱重工などの「海外進出企業」を現在の日帝の侵略企業と定義し、そこに働く労働者は侵略の手先であると短絡的に規定した東アジア反日武装戦線の見方は間違っていなかったか? 実際に亡くなった8人は三菱の社員だけではなかった。400人近い負傷者の中には後遺症を負った人もいたことだろう。よしんば三菱の社員だったとして、その人の命が奪われてもいいのか?

 この爆破事件の失敗を彼らなりに総括した結果、以後1年間に及ぶ爆破事件では死者は出ていない。しかし。

 この映画を見た人たちの感想をネットでいくつか読んだ。否定的な意見を書いている人たちには製作者の意図はまったく伝わっていない。これほど微妙な題材なのだ、映画だけではわからないことが多すぎる。だからこそ、本を読んでほしいと切に願う。わたしたちは先の戦争で誰が加害者だったのか被害者だったのかを知るべきである。そして、それはそれほど単純に分けられることでもない。と同時に、この爆破事件の被害者とはどういう立ち位置を持った人々だったのかを知るべきではないだろうか。そして、東アジアの人々に心を寄せ、自らの加害者性に敏感であった東アジア反日武装戦線の若者たちが、アジアの被害者の代弁者たらんとしたこと自体に間違いはなかったのか? サバルタンは誰なのか。

 かくのごとく、いくつもの思考が刺激される作品であった。狼は「見つかった」わけではない。本作の中で暴力の意味を指摘する池田浩士氏の短いインタビューでは語り切れない、国家の暴力とそれに抗する暴力の意味をもまた、探す旅が始まるのだろうか。この映画が車窓からの風景を映し出したのは、まさにこの映画そのものが旅であることを象徴している。

 「反日」の意味と意義を問い直す営みがこの映画をきっかけに生まれれば、と願う。同じ過ちと、新たな過ち(反日というレッテリングとヘイト)を生起させないために。

2020

韓国  74分

監督:キム・ミレ

企画:藤井たけし、キム・ミレ

音楽:パク・ヒョンユ

サンストローク 十月革命の記憶

 劇場未公開作。

 ロシア革命を白軍側から見た作品で、当然にもレーニンの軍隊は悪役である。ミハルコフの演出は極めて重厚でカメラワークも豪快で良い。イワン・ブーニン著『日射病』を原作とする。

 1920年11月のこと。すでにソ連軍に抵抗する白軍は敗北必至であったが、それでも降伏を拒否していた。捕虜になった白軍たちの過酷な生活。一人ずつ赤軍の取り調べを受けているが、調べる赤軍兵士は知識も教養もない。調べられるほうは貴族や上流階級の子弟たちだ。主人公の中尉は「なぜこんなことになったのか」と独り言のようにつぶやく。彼の回想で時は1907年のめくるめく恋の日々に戻る――。

 革命というものは、反革命の側から見たらこんな風に見えるのだな、という映画だった。赤軍の理不尽なふるまいや、白軍の敗北感と無駄なプライドややるせなさがこれでもかと描かれる。

 カメラの動きのスケールの大きさや奥行きのある展開はさすがミハルコフと思わせるものがある。そこはことなく漂う寂寞感や哀愁はたまらなく心をかきたてる。チャイコフスキーの音楽を聴いた時のような気分。(Amazonプライムビデオ)

2014
SOLNECHNYY UDAR
監督:ニキータ・ミハルコフ
製作:レオニド・ヴェレシュチャギン
脚本:アレクサンドル・アダバシャンニキータ・ミハルコフ、ヴラディミール・モイシエンコ
撮影:ヴラディスラフ・オペリヤンツ
音楽:エドゥアルド・アルテミエフ
出演:マルティンス・カリータ、アナスタシヤ・イマモーヴァ、ヴィクトリヤ・ソロ