吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

2019年の映画振り返り

 劇場で見たのは84本。そのうち、「ボヘミアンラプソディー」は3回見た。これ、2018年のマイベスト1で、そのままの勢いで年が明けてからも3回見に行ってしまった、というもの。

 DVD、Blu-ray、ネット配信で見たのは137本。こんなに多くなった理由はAmazonプライムビデオのおかげ。iPadにダウンロードし、寸暇を惜しんで通勤電車内などで見た結果、この数字となった。しかしこういう映画の見方は邪道だと自分でも思っている。集中力および作品に対するリスペクトに欠ける。映画館で見ていたら高得点になった可能性のある作品もあるだろう。

 で、全部で220本217作品(繰り返し見たのを除くのと、「ああ荒野」の前後編を1作品と数える)から去年のマイベストを選出。 

 レンタルDVDやネット配信で見たものには※をつけた。

◆とにかく大好き、作品の出来もよし 

COLD WAR あの歌、2つの心
カツベン!
グリーンブック
金子文子と朴烈(パク・ヨル)
女王陛下のお気に入り
僕たちは希望という名の列車に乗った
蜜蜂と遠雷
1987、ある闘いの真実 ※
ボヴァリー夫人とパン屋 ※
家族を想うとき
主戦場
◆作品の出来は関係ない、映画って好きになれるかどうかだねぇ
昼顔 ※
エスタデイ
ブラックパンサー ※

◆好き嫌いとか言ってる場合じゃないすごい映画
ボーダー 二つの世界

◆ひたすら笑っていた
翔んで埼玉
決算! 忠臣蔵

◆一番泣いた映画
8年越しの花嫁 奇跡の実話(瀬々敬久監督)※
バジュランギおじさんと、小さな迷子
 
◆これは別格
スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け 
 

◆選外にするのは惜しい良作・佳作・怪作 

 JAWS/ジョーズ
THE GUILTY/ギルティ
寝ても覚めても
12か月の未来図
ちいさな独裁者  ※
ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男 ※ 
パッドマン 5億人の女性を救った男
フリーソロ
よこがお
アイアン・スカイ第三帝国の逆襲 ※
エセルとアーネスト ※
ジョーカー
勝手にふるえてろ ※
作兵衛さんと日本を掘る
ヘヴンズ ストーリー ※

アルキメデスの大戦

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け

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  ついに終結、全9話が終わった。わたしはラストシーンで思わず涙してしまった。レイの最後のセリフに旋律を覚えて、このサーガの終わりに感動に打ち震えた。そして、続く長い長いエンドクレジットをあの壮大なテーマ曲とともに堪能した最後には劇場で拍手を送った。しかし、日本の客はいかんなぁ。アメリカならスタンディングオベーションするところだろうに! なんで劇場で拍手した人がわたし一人なの。

 42年かけて全話を映画館で見た、もちろんデジタルリマスター版の4,5,6話も劇場で見ましたよ! おまけにDVDも全部持ってるからね! 感動するしかない、わたしの青春のSWである。

 しかしそれほど好きなシリーズなのにどういうわけか細部はすっかり忘れている。困ったもんだ。特に最近の3部作はあまりいい印象がない。やはり4,5,6がよかったなあ。いや、1,2,3の悲恋も捨てがたい。

 で、本作第9話はいよいよレイの出生の秘密が明かされる。死んだはずのキャリー・フィッシャーはレイア・オーガナ将軍として未公開映像とCGで蘇る。いまどきは何でもできるというのが驚くべきだ。

 本作で感動したのはアナクロニズムの機械の数々。コンピュータにデータを移し替えるために差し込むのはまさかの8トラックカセットか(笑)? あるいは長くて太い金属チューブ。ロボットたちもブリキの世界観漂うのがいい。もうたまらんわ、このノスタルジー

 そしてこれまでのシリーズのすべてをミックスしたような造りになっているから、今までのさまざまなシーンが目に浮かぶ。そして目に浮かぶだけではなくて実際に過去作を挿入したり、登場人物を復活させることによって古くからのファンへのサービスも怠りない。
 ロケ地についてもよくぞ選んだと思わる異世界的な風景の数々に陶酔した。シリーズ第1部の第4話、第5話に登場してくるさまざまなクリーチャーを彷彿とさせるキャラクターも可愛い。ストーリーのつじつまが合わないところなどはほぼ気にならず、そういう細部に宿った神に感謝する映画である。
 ただし、長い長い時間をかけてシリーズの性格が変わってきていることも確かだ。特にディズニー製作になってからだろうか、大人向けの政治力学の話がすっかり表に出なくなった。マキャベリ的な権力の物語がわかりやすい子供向けのおとぎ話にすり替わった感がある。
 ダースベーダーの孫であるカイロ・レンが今作ではどのように姿を現すのか、そしてレイとの対決の行方は?! もちろんシリーズ第6話をなぞっているのだから、結末はわかっている。わかっていても感動するのだ!
 ついに物語は第4話へと戻る。ラストのシークウェンスはスターウォーズ史上に残る名場面だった。感涙しかない。 
2019
STAR WARS: THE RISE OF SKYWALKER
アメリカ  Color  142分 

監督:
J・J・エイブラムス
製作:
キャスリーン・ケネディほか

居眠り磐音

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 「いよっ、松坂屋!」と大向こうから声がかかりそうなほど、桃李くん、かっこいいです!

 居眠りしているようにも見える構えから素晴らしい太刀さばきを見せる若き豊後関前藩士坂崎磐音(さかざき・いわね)の波乱万丈の物語。

 磐音の祝言前日に大きな事件が起き、幼馴染3人を失った彼は絶望とともに脱藩して江戸に流れてきた。このごたごたのいきさつが大変ややこしい。おそらく後々の話へと続く伏線なのだろうが、本作では真相は明かされないままだった。

 で、物語は江戸に到着した浪人磐音が金欠のあまり、鰻屋で働いたり両替商の用心棒になったりするのだが、彼は生来明るい人柄のようで、金に困っているくせにくよくよしている風もない。時は田沼意次の財政改革の時代。田沼が敷いた貨幣改革により、金相場が値上がりしていた。そのどさくさにぼろ儲けをたくらむ銭ゲバ両替商が淡路屋であり、一方、田沼派の両替商かつ良心的な商売を旨とするのが今津屋である。磐音はこの今津屋の世話になることになる。

 柄本明の悪徳商人ぶりがあまりにも絵にかいたような悪役なので終いには爆笑してしまった。しかも関西弁やんか! なんでやねん。芸達者ぶりに感動しつつ笑った。

 で、磐音も強い剣士のはずだが、何度も切られてけがをしている。そんなに切り傷だらけになったら敗血症で死ぬのではないか。この時代劇は主人公が超人的な強さを見せるわけではないところがよい。彼はふだん心優しく礼儀正しい好人物かつ頭も切れて手先も器用。おまけに男前。だから女にもてるのは当然なのであるが、もう3年半も逢っていない許嫁を想い続ける。この悲恋が涙をそそる。

 笑いあり涙ありチャンバラあり純愛あり陰謀ありの盛り過ぎ感に満ちた娯楽作。続編希望。(レンタルBlu-ray

 2019
日本  121分
監督:本木克英
原作:佐伯泰英 『居眠り磐音 決定版』(文春文庫刊)
脚本:
藤本有紀
撮影:
安田雅彦
音楽:
高見優

ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男

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 この映画をみると主人公ニュートン・ナイトの伝記を読みたくなる。それほど、ニュートン・ナイトが魅力的な人物として描かれているからだ。南北戦争時代に南軍から脱走した兵士や黒人奴隷たちを集めて武装蜂起し、コミューンを打ち立てた人物がいたとは! まったく知らなかったので新鮮な感動があった。

 南軍の衛生兵として戦場で地獄を見たニュートン・ナイトは、奴隷をたくさん所有する金持ちが兵役を免れることを知って激怒し、幼い自分の甥が戦死するのを目の当たりにして脱走を決意する。やがて彼は脱走兵たちと出会い、奴隷とともに南軍と戦うことを決意して武装放棄する。彼の放棄には貧しい白人農民、そして農婦たちも加わった。大勢の女性たちが果敢に銃を持って戦う姿には感動を覚える。しかもたいした銃器ももたないニュートン軍がなぜ勝てるのか? それは知恵をしぼったゲリラ戦を展開したからにほかならない。

 ニュートン・ナイトは「ジョーンズ自由州」の立国を宣言する。彼が述べた自由州の原則は「貧富の格差を認めない。何人(なんぴと)も他者に命令してはならない。自分が作った物を他者に搾取されることがあってはならない。誰しも同じ人間である」という単純かつ崇高な理想だった。まさに社会主義社会の理想! 彼がどこでこの思想を手に入れたのかそれを知りたいと思ったが、映画ではそこまでは描かれていなかった。

 途中でニュートン・ナイトの子孫が登場する場面がなんども挿入される。この場面があるから、彼が長生きしたことがわかるのだが、80年経っても彼が命懸けで闘った人種差別撤廃は実現できていなかった。異人種間の結婚が許されるのはさらに後の時代になる。そして黒人の公民権南北戦争から100年経ってようやく実現したのだ。

 アメリカ合衆国が多くの血を流して獲得した自由の理念がいままた脅かされようとしている。巻頭のすさまじい殺戮や絞首刑などの場面があるために本作はPG12に指定されているのだが、今こそこの映画を多くの人に見てほしい。(Amazonプライムビデオ))

2016
FREE STATE OF JONES
アメリカ  140分 
監督:ゲイリー・ロス
脚本:
ゲイリー・ロス
音楽:
ニコラス・ブリテル
出演:
マシュー・マコノヒーググ・ンバータ=ロー、マハーシャラ・アリケリー・ラッセルクリストファー・ベリー、ジェイコブ・ロフランド

ロング,ロングバケーション

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 認知症の夫と末期癌の妻がキャンピングカーに乗って人生最期の旅に出た。目的地は夫が敬愛するヘミングウェイの生家。国語教師だった夫はどんなに頭がぼけてもヘミングウェイの小説は暗誦することができる。美しく気丈な妻は昼間は鬘を被って残り少ない頭髪を隠している。果たして二人は無事に目的地にたどりつくことができるのか?

 認知症の母をもつわたしには他人事とは思えないことが数々に。しかしこの映画で描かれている認知症はごくごく軽症だ。もちろん夫ジョンの運転技術については危険も伴っているだろうが、なんとか妻エラの助けもあって大きなキャンピングカーを操縦していく。

 この二人の道行きが楽しくコミカルで、旅の途中で出会う人々も楽し気な人が多い。とはいえ、途中では怖い目にも遭うし、ジョンは失禁したり妻のことを忘れたり迷子になったりとそれなりに大変だ。

 この二人のこれまでの50年の夫婦生活はキャンプ場で映し出すスライドショーによって観客にも紹介される。この演出が上手い。徐々にわかってくる二人の過去については楽しいことばかりではなかったのだ。そして現在もまた元気そうに見えるエラの病状は極めて悪くなっている。二人は笑ったり怒ったり泣いたりさまざまな感情の起伏に襲われながら、そして両親を案じる娘と息子と電話で会話しながら一路南下していく。

 ヘレン・ミレンドナルド・サザーランド、主役二人の演技は絶品だ。この二人の演技は老夫婦が互いに決して離れては生きていけないことを納得させるものがある。しかしだからといって最後にとった選択は正しいのか? 人生を「正しいか正しくないか」で決めることはできないが、この悲しい結末には納得がいかない。ただ、気持ちはものすごくわかる。

 ジョンが教師だというのがこの映画の背骨のようなもので、彼が滔々と語るヘミングウェイ論を面白がって聞いてくれる若い女性たちという存在が不思議であると同時にどこか希望となっている。(Amazonプライムビデオ)

 2017
THE LEISURE SEEKER
イタリア / フランス   112分 
監督:パオロ・ヴィルズィ
原作:
マイケル・ザドゥリアン 『旅の終わりに』
脚本:
ティーヴン・アミドン、フランチェスカ・アルキブージ、フランチェスコ・ピッコロ、パオロ・ヴィルズィ
音楽:
カルロ・ヴィルズィ
出演:
ヘレン・ミレンドナルド・サザーランドクリスチャン・マッケイ、ジャネル・モロニー

アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲 2019

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 前作ファンとしては(をい、ほんとにファンと言っていいのか)続編は当然見るのである。しかし続編はまったく続編じゃなかった!(笑)

 ナチスの残党が月から攻めてくるという大筋は見事に無視されていて、全然ちがう設定になっている。放射能が蔓延して人が住めなくなった地球から逃げ出した数少ない人間がナチス月面基地で暮らしていたが、絶滅の危機に瀕したことにより、起死回生をかけて地球に戻ってくる、という話。地球は空洞になっていてその中には未知の都市があり、宇宙からやってきた知的生命体が地球征服を狙っていた――。いえ、実は既に地球は征服されているんです。だってその人たちは実はね。。。。

  今回の爆笑点は、月面世界のほぼ人口消滅状態の社会でも貧富の格差が歴然としてあり、上級国民はジョブズ教の信者で聖スティーブをあがめている、ということ。まあいろいろと笑える設定なので大いに笑いましょう。

 この世界ではたった一人であらゆる困難に立ち向かっているのが若き女性オビであり、それが前作の美しきナチスであったレナーテの娘ということ。しかも肌が黒い。彼女が惚れているマッチョ男がいて。。。

 地底国に攻め入ったわれらがヒロイン、そこで目にした世界中の独裁者! どこかで見覚えのある世界史上の人々がトカゲ人間として登場する姿は圧巻である。あんまりいろいろ書くと面白みが半減するのでこれくらいで。恐竜も登場するからね! うぷぷ。(レンタルBlu-ray) 

IRON SKY: THE COMING RACE
フィンランド / ドイツ   93分 
 
監督:ティモ・ヴオレンソラ
脚本:
ダラン・ムッソン
音楽:
ライバッハ、トゥオマス・カンテリネン
出演:
ララ・ロッシ、ウラジミール・ブルラコフ、キット・デイル、ユリア・ディーツェウド・キア

家族を想うとき

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 わたしはエンドクレジットを見ながら、「ケン・ローチがどれほどの怒りを込めてこの映画を作ったことか」と心の中でつぶやいた。「そして、どれほどの愛情を労働者階級に注いだのか」と胸が熱くなる思いがした。
 前作「わたしは、ダニエル・ブレイク」と同じような演出方法で描かれているこの物語はしかし、ダニエル・ブレイクよりいっそう悲惨で絶望的な姿が抉り出されている。
 原題の”Sorry we missed you"は宅配業者が不在票に書く言葉で、「お目にかかれず残念です」の常套句。日本なら「ご不在でしたので持ち帰りました」と書いてある部分。これは同時に主人公一家の状態をも指している。
 「ダニエル・ブレイク」のときと同様に、巻頭は絵が現れずに二人の人物のセリフだけが流れる。前作と同様、それは面談の様子なのだ。ダニエル・ブレイクが福祉行政の窓口であれこれと質問に答えていたのと異なって「家族を想うとき」では、中年男性が転職のための面接を受けている。
 ずっと肉体労働者として働いてきた主人公リッキーはよりよい給料を求めて運送業の「自営業者」となる。実態は偽装請け負いにほかならない。働いても働いてもささいなことで罰金が追いかけてくる。労災補償はない上にノルマがある。自営業者のはずなのに休日を自分で設定できない。こんなことがまかり通っているのは遠くイギリスだけのことではない。我が国でも同じことはいくらでも起きているのが現状だ。
 ケン・ローチは相変わらず有名な役者を使わずにほぼ素人に見事な演技をつけている。その演出方法のかいあって、この映画は本物の労働者階級の家族ではないかと思わせるリアリティがある。夫は長時間労働で疲弊し、妻も訪問介護の仕事で一日中家を空けている。かまってもらえない高校生の息子と小学生の娘たちはそれぞれに親に反抗してしまう。
 なぜそんな無理をしてまで働くのか? 持ち家がほしいというささやかな願いをかなえるためなのだ。2年頑張って働けば家を持てる! しかし実際にはリッキーの一家は半年ももたずに崩壊への道をたどることになる。
 この映画を観ていると、人はなんのために働くのかと絶望的な気分に襲われる。少しでも豊かな暮らしをと思って懸命に働けば働くほど自分の首をしめることになる過重労働のすえに、家族の心も離れ離れになってしまう。つねに苛立ち、余裕のない言動をとってぎすぎすしていくリッキーたち一家の様子をローチ監督は手に汗握る演出で見せていく。
 ただし、ケン・ローチ監督作品でこれまでも気になるところはジェンダーバイアスから自由になっていない点だ。本作でも、やさぐれてしまう父親とあくまで優しい母親というステレオタイプはそのままだ。しかしこれは実際の多くがそうなのだから現実を反映しているだけ、とも言える。
 希望はあるのか? この生活に光は見えるのだろうか。労働者の命を削って資本主義は増長する。そのお先棒を担いでいるのがほかでもない消費者としてのわたしたちでもある。そのことが如実にわかる作品だ。
2019
SORRY WE MISSED YOU
イギリス / フランス / ベルギー   100分
監督:ケン・ローチ
製作:
レベッカ・オブライエン
脚本:
ポール・ラヴァーティ
音楽:
ジョージ・フェントン
出演:
クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン  セブ、ケイティ・プロクター、ロス・ブリュースター