吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

蜜蜂と遠雷

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 ピアノ曲好きにはたまらない映画。見終わった後、Youtubeでプロフィエフのピアノ協奏曲を繰り返し聞いてしまった。

 本作はおそらく原作(未読)の書き込みが的確なのだろう。主演4人のピアニストそれぞれのキャラクターが立っていて、演じた役者もみなうまい。松岡茉優は非常に繊細な演技をみせ、挫折感漂う冒頭の場面から徐々に成長を遂げてついには最後の演奏場面で天駆けるような解放感を見せてくれた。見事だ。演奏も本人が弾いているわけではないだろうが、本人が弾いているように見えてまったく不自然なところがない。

 優勝候補筆頭を演じた森崎ウィンも熱演だった。そもそも国際ピアノコンクールの決勝に残るような天才的な4人のアンサンブルを見せる物語というのが贅沢きわまりない。これでもかとばかりに音楽を堪能出来て満足満足。4人はライバルのはずなのにちっとも争ったり相手を出し抜こうとしたりしない。むしろ彼らが醸し出す化学変化が映画に豊かな世界を生み出している。松岡茉優鈴鹿央士が「月の光」をテーマとするピアノ曲を次々と連弾していくシーンは鳥肌もの。

 若手ピアニストがそれぞれの事情を抱えながらも全員が物語の中で成長していくという胸のすくような作品だから、鑑賞後の気分がたいへんよい。しかも余計なセリフがほぼなく、斉藤由貴の英語以外には違和感がなかった。鹿賀丈史の、いかにも気難しいマエストロという雰囲気の指揮者も貫禄があり、かつ優しさと情熱を内に秘めつつ若者を叱咤する立場という難しい演技をものしていた。

 度重なる雨と馬のシーンという幻想的な映像も含めて、本作は映画でないとできない表現を見せてくれた。それはまさに映画ファンが見たいと思っているものにほかならない。もう一度見たいと思わせる、これはお薦め。

2019
日本   118分 
 
監督:石川慶
製作:
市川南
原作:
恩田陸 
脚本:
石川慶
出演:
松岡茉優松坂桃李森崎ウィン鈴鹿央士、臼田あさ美ブルゾンちえみ片桐はいり光石研平田満斉藤由貴鹿賀丈史