吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

女王陛下のお気に入り

 2月に見た映画。

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 斬新な映像感覚、研ぎ澄まされた音の効果、緊張と弛緩のほどよい交錯。三人の女の演技がぶつかる興奮。映画的興奮を味わわせてくれる、わたし好みの作品だ。

 舞台は18世紀初頭のイングランド。この当時の国王であるアン女王のことはまったく知らなかった。それだけに、どこまでが史実なのかよくわからない女三人の権力争いがスリリングで先を読ませない面白さがある。権力争いといっても絶対的権力を持っているのは女王一人。とはいえ、女王も議会の趨勢を無視することはできない。フランスとの戦争を続けるのか止めるのか、心揺れる女王に賛否両派が取り入ってくる。

 政治劇の面白さと女の寵愛争いがからみあって目が離せない。アン女王は17人の子どもに死なれた悲劇の女王であり、子どもたちの代わりにウサギを飼って冥福を祈る日々を過ごす。

 室内のシーンが多いゆえ、窓からの光や蝋燭の光が印象深く、暗闇の中でも微妙に浮かび上がる人物など、実に撮影がうまい。広角レンズを多用しているため、非日常的で不思議な感覚が生まれてユーモラスだ。ただし、この撮影については賛否両論ある模様。うちのYも広角レンズは嫌いだと言っていた。

 思うに、権力争いをする者たちは男であろうと女であろうと醜い。その醜さにさまざまな「人間らしさ」が垣間見えて、それは遠い時代の遠い国の絵空事という感じがしない。今の日本でもいろんな局面で似たようなことがあるのではないか。宮廷内のお遊びも醜い争いも権力欲も性欲も嘔吐や泥といった不潔な描写も、すべて非常に面白くて画面から目が離せない。初めは清純派のようないでたちで現れたエマ・ストーンが、たちまち女王の寵愛を得てのし上がっていく様子も見事で、どんどん権力欲にまみれた高慢ちきな悪女へと変貌していく様も小気味よい。

 とにかく主役3女優の演技が素晴らしくて、こういう映画って見ていて飽きない。病弱でやつれた(かつ肥満)アン女王を演じたオリヴィア・コールマンはオスカーを獲った。レイチェル・ワイズエマ・ストーンはノミネートされた。いずれも納得の演技である。今年必見作の一つ。 

(2018)
THE FAVOURITE
製作:セシ・デンプシーほか
脚本:デボラ・デイヴィス、トニー・マクナマラ
撮影:ロビー・ライアン