吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

シシリアン・ゴースト・ストーリー

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  2月に見た映画。

 事前情報をほとんど仕入れずに見に行ったので、「こんな話だったのか!」と驚いた。しかも実話を基にしているとのことなので、一層切なさが増していく。

 ゴーストはつまり、殺された少年の魂のことで、彼は家を遠く離れた場所で監禁され、肉体は滅びて海へと流れ、魂が彷徨っているのだ。

 1993年にイタリアはシチリアで起きた、マフィアの内紛による誘拐事件に巻き込まれた少年と、彼に恋する少女の懸命の捜索劇であるが、この主役二人を演じた子役たちが大変に愛らしく、観客の同情心をそそる。

 タルコフスキーの映画が多く水をメタファーとして映像に取り込んだように、本作もまた流れる水、川、海、湖といった、いずこかへと流れていく水が少年と少女をつなぐよりどころとして描かれている。

 誘拐された13歳の少年が虐待を受けたあげくに徐々に衰弱していく様は目を覆いたくなる。そして、大人たちの無関心や無理解をよそに一人、愛する少年を救おうとする少女の孤軍奮闘は冒険譚のごとくに緊張感を伴う。しかし、その様子もすべてがたいそう美しい映像で撮られていくために、どこか夢の中の世界のようにも感じる。タイトル通り、ゴースト(幻影)の物語である。

 最後はすべての出来事が幻影であったかのように、哀しみも苦しみもちりぢりに溶けていき、流れ流れて愛しい人のところへと柔らかにたゆたってゆく。

 こんなに悲惨な結末なのに、あまりにも美しい映像に心が洗われ、少年の魂がいつまでも周りを彷徨っているように感じてしまう。こういう映画のほうが実はいつまでも彼のことを忘れずにいられるのだということに気づいている監督たちの慧眼に驚く。鎮魂の物語、好き嫌いはあるかもしれないが、こんな映画は今までなかったという意味でもお薦め作。 

シシリアンゴーストストーリー
(2017)
SICILIAN GHOST STORY
123分
イタリア/フランス/スイス

監督・脚本:ファビオ・グラッサドニア、
アントニオ・ピアッツァ
製作:ニコラ・ジュリアーノほか
撮影:ルカ・ビガッツィ
音楽:アントン・スピールマン
出演:ユリア・イェドリコフスカ、ガエターノ・フェルナンデス、コリーヌ・ムサラリ