吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

メアリーの総て

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 これも1月に見た映画。
 怪物「フランケンシュタイン」を生んだのはわずか18歳の少女作家だった、というお話。悲劇に彩られたメアリー・シェリーの若き日々を描いた作品である。物語は暗く、フランケンシュタインという化け物が登場するにふさわしいゴシック的な雰囲気を醸し出しつつ、若くして様々な不幸を体験してしまったメアリーの暗い情念がほとばしる独特の画風を持っていて、見終わってからもずっと心に残る。
 メアリーは若き詩人パーシー・シェリーと出会って熱烈な恋に落ち、駆け落ちして彼の子を産むが、子どもはほどなくして亡くなってしまう。絶望の中でメアリーはパーシーを通して詩人バイロン卿と知り合う。スイスのバイロン卿の屋敷に夫のパーシーと共に滞在している間に、退屈しのぎで「一人一話ずつ怪談を作ろう」とのバイロン卿の提案によって生まれたのが、後に「フランケンシュタイン」として知られることになる怪物の物語である。
 退廃的な生活を送るバイロン卿は周囲の若者たちに絶大な影響を及ぼし、その財力で自由気ままに生きているが、どう見ても無責任で自堕落で生活力のない男にしか見えない。メアリーの夫パーシーとて同じこと。まったく男たちはなんの頼りにもならず、それどころか女たちの才能や愛情を浪費して生きている。その有様に憤りと失望を掻き立てられるメアリーは怪奇小説を完成させるが、たった18歳の女が書いたとは出版社にも信じてもらえず、匿名で出版することとなる。こういう悔しさはブロンテ姉妹の伝記映画「トゥ・ウォーク・インビジブル」でも描かれていた。女が作家として認められなかった時代の怨念があふれている。
 なんと、若き天才詩人のひとりとしてベン・ハーディが登場しますよ、「ボヘミアンラプソディー」でロジャー・テイラーを演じたあの彼が! 髪型や髪の色が違うから随分印象が変わってしまったが、ベン・ハーディもまたバイロン卿に翻弄された若者を演じて繊細さを見せてくれていた。
 主役のエル・ファニングはその愛らしい顔に怒りや悲しみや知性を漲らせ、大変印象深い演技を見せてくれた。まだ18歳でこれだから先が怖いぐらいだ。女が一人の人間として認められなかった時代に果敢に立ち向かった若き女性を熱演している。
(2017)
MARY SHELLEY
121分
イギリス/ルクセンブルクアメリ

監督:ハイファ・アル=マンスール
 製作:エイミー・ベアーほか
脚本:エマ・ジェンセン
 音楽:アメリア・ワーナー
 追加脚本:ハイファ・アル=マンスール
 出演:エル・ファニング、ダグラス・ブース、 スティーヴン・ディレイン
ベン・ハーディ、 ジョアンヌ・フロガット、トム・スターリッジ