吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

リバプール、最後の恋

 4月初めにこの映画と「あなたはまだ帰ってこない」を続けて見た。どちらも女性が主人公なので、女性観客が多かった。特にこの映画は高齢女性が目立っていたね。

 観客が現実では経験できないことを女優は代わりに体現し、観客に悲喜劇を体感させてくる。そういう意味で、観客の女心をくすぐる映画なので、高得点(^^)。
 アネットが演じるグロリア・グレアムの皺やシミは半端なく多くて、こういう「老女」に恋した30歳年下の恋人の心理を知りたいものだと思った。しかし、そういうふうに思うこと自体が恋の本質を知らない者のものいいだと気づいた。恋には男女差も年齢差も関係ない。
 して、物語は。かつてハリウッド女優としての人気を誇ったセクシー女優のグロリア・グレアムも、1970年代末には出演できる映画もなくて、イギリスの小さな舞台に立つ役者の一人となっていた。そんな彼女のことを知らない若き舞台俳優のピーターは、彼女と知らずに偶然出会った女性が役者であることを知り、急速に惹かれあっていく。だがグロリアはもはや末期の癌に侵されていたのだった。。。。
 グロリアは4度離婚した恋多き女としてスキャンダルの女王でもあった。そんな彼女のことを知ってか知らずか、美しく魅力的な女性としてピーターはグロリアに惹かれていく。しかし、そのグロリアを演じたアネット・ベニングの老けぶりがすさまじくて、どう見てもおばあさんにしか思えない。おばあさんに恋する20代の若者なんて存在するのか? でもこのおばあさんがなかなかにダンスが上手でスタイルがよくて笑顔が素敵に可愛くて、そしてなによりも無邪気でわがままだ。つまり、永遠に成長しない幼女のような女性なのだ。
 そのわがまま女性が実は若き恋人の将来を慮っていたことがわかるシーンは切ない。大人の配慮で別れを決めたグロリアが、しかし最後はピーターを頼り、彼が住む「リバプールに行きたい」と連絡してきたとき、既に彼女の寿命は尽きようとしていた。
 ここで不思議なことは、ピーターの両親がグロリアの世話をかいがいしくしてくれること。ピーターは労働者階級出身であり、彼の実家はつつましい暮らしをしている。狭い家の一部屋を占領してしまったグロリアは、ピーターの母の世話になる。自分の息子が自分と同世代の恋人を連れて帰ってきたら、ふつうは仰天するよね。でもこの両親は二人とも「グロリア・グレアムのファンなの」と言ってはばからない。これが驚くべきことであると同時に感動のポイントだ。でも、「本当に愛しているなら自分の母親に介護の任せるのではなくて自分でするべきだね」と21世紀に生きるフェミニストなら言うだろう。
  本作の演出のキモは、現在の映像と過去とがシームレスにつながるというもの。ドアを開け閉めするたびに時空を飛んでいく。カメラがパンする先は過去に飛ぶ。こういう演出は「旅芸人の記録」で初めて見た記憶があるが、あの頃と比べるとずいぶんおしゃれになったものだ。
 最後は切ない。1981年にグロリア・グレアムは亡くなった。57歳の生涯は波乱に満ちていたが、最後は愛に包まれていたのであろう。うらやましくも燃え切った生涯だ。
2017
FILM STARS DON'T DIE IN LIVERPOOL
105分
イギリス

監督:ポール・マクギガン
製作:バーバラ・ブロッコリコリン・ヴェインズ
原作:ピーター・ターナー
脚本:マット・グリーンハルシュ
撮影:ウルスラ・ポンティコス
音楽:J・ラルフ