吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

トゥ・ウォーク・インビジブル

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 allcinemaにデータがないから、なんでだろうと訝しんでいたら、これはBBCのテレビドラマであったことが判明。しかしこんなに雄大な風景をテレビで見るなんてもったいない話だ。わたしはテレビどころかiPadで見てしまったから悔やまれる。もう一度あの風景の場面だけでも見たい!
 して本作は、19世紀半ばのイギリス、ウェストヨークシャー州を舞台にシャーロット、エミリ、アンのブロンテ三姉妹が作家として「嵐が丘」などの作品を発表するまでの苦難の物語を描く。
 この三姉妹には男きょうだいが一人だけいて、彼は女だらけのきょうだいの中で唯一の男子だったからか、父に溺愛され、すっかり自堕落な放蕩息子に成り下がり、姉妹たちの才能に嫉妬し、最後は酒とドラッグに溺れて31歳で死んでしまう。
 姉妹はいずれも文学的才能に恵まれていたが、19世紀に生きる彼女たちは決して自分たちの作品を出版しようなどとは思わず、長女シャーロットの説得でようやく出版社に送った原稿も、男の名前で郵送したのである。名作が生まれ高い評価を得たが、誰も作家が三人の女性であるとは気づかなかった。
 映画はしばしば姉妹たちが誰一人人影の見えない雄大な景色の丘の上に立つ場面を映し出す。そして、風に吹かれながら彼女たちは草原に寝そべり、語り合う。この美しい風景が本作の大きな魅力だ。そして、19世紀の建物や家具調度品の数々が見ごたえある。
 成功した作家となるまでの、女であるがゆえの苦しさや葛藤、姉妹喧嘩などがじっくりと描かれて、引き込まれていく。一方で彼女たちの作品が売れていく描写がほとんどなく、そこはたぶん誰もが知っている事実としてすっ飛ばされているのだろう。
 クライマックスは姉妹が17時間かけてロンドンの出版社を訪ねる場面。ここはハラハラしてしまった。女であるがゆえに悔しい思いをしてきたシャーロットは出版社の社員に対して友好的な態度を見せず、自分たちの名前も訪問しに来た理由もちゃんと述べない。「そんなことでは社長に会えないやんか、何してるんやこのシャーロットは。もっと営業努力せなあかんやろ」とわたしは思わず画面に向かって叫んでしまったが、そのきつい表情や物の言い方がとても印象に残る。彼女の意志の強さ、そして長らく理不尽な差別に抑圧されてきたことへの静かな怒りをを実感させる場面であった。
 ブロンテきょうだいは実は6人いたのだが、いずれも早世してしまった。3姉妹がわずかな作品しか残さなかったことが残念でならず、同時に彼らの人生が気の毒でならない。(Amazonプライムビデオ)
119分
2017
監督 サリー・ウェインライト
主演 ジョナサン・プライス, フィン・アトキンス, チャーリー・マーフィ
助演俳優 アダム・ナガイティス, クロエ・ピリー
提供 BBC Studios