画面に登場する主要人物は主人公の警官たった一人。場面は警察署のコールセンターのみ。これほど金のかかっていない映画も珍しいだろう。舞台劇でも再現可能な物語だ。それでも、これほど緊迫感に溢れる映画が作れるということにまずは感動した。そして、なぜ本作のタイトルが”GUILTY”なのか、それも "the" がついている、そのことに思い至った衝撃のラストシーン。これほど見事な脚本と演出の映画も珍しい。まずは喝采を送りたい。
さて物語は。
主人公のアスガーは、警察の緊急ダイヤル専用オペレーター。現場に一刻も早く戻りたい彼にすれば退屈な仕事だ。酔っ払いが転倒したとか、売春婦にパソコンを盗まれたとか、彼にしてみればどうでもいいような電話ばかりかかってくる。このアスガーを演じたヤコブ・セーダーグレンがわたしの大好きなケヴィン・コスナーによく似たイケメンなので、見ているだけで飽きない。ほとんど彼のアップばかりが映るんだから、これでもしも自分の好みと違う俳優が出てきたらもう悲劇だ。せっかくの素晴らしい作品が台無しになるではないか! でもこの映画はハリウッドがジェイク・ギレンホール主演でリメイクするんだそう。これはたまりません、あの顔を90分アップで見続けるなんて拷問だ。
それはさておき、アスガーが受け取った一通の緊急電話がどうやら誘拐事件らしいことがわかり、俄然、画面は緊迫感を帯びていく。機転を利かせたアスガーは、誘拐された女性に適切なアドバイスを繰り返す。
そうこうするうちに、「明日は大切な日だから」と同僚や上司に言われ続けるアスガーは、どうやらなにかの事件を抱えているらしいことが徐々にわかってくる。彼はその事件がらみで左遷されていること。あしたの公判をうまくしのげればあとは現場復帰がかなうということ。さまざまなアスガーの状況が明らかになる。
そのいっぽうで、本編たる誘拐事件は刻一刻と油断ならない展開を見せる。ワンカットではないけれど、事件の進行と画面上の時間はほぼ同じだ。電話が途切れて沈黙が続く時間もじっと観客はアスガーとともに耐えねばならない。
アスガー以外に登場する人物たちは電話を通してその姿を想像するしかないため、この映画では音が非常に重要な要素を占める。誘拐された女性の6歳の娘が電話口で泣きじゃくる様はまさに鬼気迫る。信じられないぐらいの演技力に驚くしかない。その他、雨音やドアを閉める音、靴音、さまざまな音が電話越しに聞こえてくる。この音の効果が素晴らしい。
人は正しいことをすれば気持ちがいい。適切な判断のもとに適切な助言をし、それが事件の解決に向かえばなによりだ。そのことに誇りを感じるだろう。しかし、その「適切な判断」が間違っていたら? 正義と不正のはざまにいることがやがて明らかになる警官アスガーは、自らの罪と向き合うことになる。そこに至る脚本の見事さに脱帽。
ラスト、彼がかけた電話の相手は誰だろう? 見ごたえのある一作。お薦め。