原題は「マウンテン」だけなのに、そこに「クレイジー」という言葉を足したくなる気持ちはわかる! ほんと、頭おかしいよね(褒めてる)。この映画は、世界中の名山を舞台にありとあらゆる手段で駆け上り駈け下りるクレイジーな人々を追ったドキュメンタリー。そして、映像詩でもある。
映像詩だけに、音楽と映像美を堪能する作りになっているところが、実はわたしには気に入らない。「この映像は何年のどの山なのか、ちゃんと説明してほしい!」と思うことしきり。やはりわたしは実証的な記録を求めてしまう癖がついているのか、ついつい、固有名詞と固有の時間を知りたくなる。しかしそんな人間の欲望を尻目に、この映画は固有名詞も数字もしったこっちゃないという態度を見せる。憎たらしい。
なので、見ている間中、ここはエベレストなのかマッターホルンなのかマッキンリー(今ではデナリ)か、などとあれこれと考えてしまう。しかもナレーションがウィレム・デフォーである。最初から最後まで誰がナレーターなのかわからなかった不覚のわたくし、あとで知ってからは「なるほど」と思うほど淡々と、そして深い陰影に満ちた声であった。
で、何がクレイジーなのかといえば、まずは巻頭。ロッククライミングの場面で息をのむ。フリークライミングと呼ばれるその手法は、命綱もつけずに断崖絶壁にへばりついて素手だけで何百メートルも岸壁を登っていくのである。この瞬間にわたしは「ばかか、ほとんど死んでいる。生命保険も下りないなー」とあれこれ考えてしまった。命を10個ぐらいは神様に差し上げたも同然。
登山の場面だけではなくて、スキーで滑空するさまも写されていて、これはもう撮影するほうも大変だなと感嘆。いつも思うけど、山岳撮影はカメラマンがいちばん偉い。
山の峰をマウンテンバイクで走る様なんて、狂気の沙汰。高いところが怖いわたしからすれば、開いた口が塞がらない。ついでに綱渡りも登場しましたよ、どうやってロープを渡したんだろう。
まあとにかく口あんぐりと開けているうちにあっという間の74分が過ぎて行った、という感じ。映像が綺麗だから退屈せずに見られる、お薦め作。 (レンタルDVD)