足を傷めて仕事ができなくなった老漁師が孫娘と一緒に旅に出る、というロードムービー。この老人がわがままで無教養でどうしようもない男だ。妻には先立たれ、娘にも死なれて孫の春と二人で北海道の寒村で生活していたが、その孫の勤務先である小学校が廃校となった。やむなく春は都会に出ることになり、残されることになった老人はきょうだいを頼って二人で旅に出ることとなるが、誰一人として彼を引取ってくれるきょうだいがいない。。。。
脚本がうまい。仲代達矢爺さんが自立できないダメ男ぶりをいかんなく発揮していて、むしろ清々しい。こんな爺さん、だれも世話してやろうと思うまい。孫娘の春はまだ19歳で、そのうえ童顔でガニ股で歩くからまるで幼児に見える。徳永えりにこういう歩き方をさせた演出の意図を考えてしまったが、大人になれない二人組ということを強調しているのではなかろうか。
二人の旅は身につまされるような貧乏旅行であり、彼らはずっと最初から最後まで同じ服装だ。着替えもないのか? ある時は道端のベンチで寝るような夜もある。いまどき携帯電話も持っていないのか、ホテルを探すのにかけずりまわるとは。仙台のような大都会なら駅前に観光案内所があるだろうに、そういうところを利用しようという知恵も働かない。この映画が東日本大震災の前に撮られているという点も興味深く、これが震災後だったら別の物語になったのではないかと興味深く思わせるものがある。
春の面構えが素晴らしい。彼女はいつも怒りに満ちている。おじいちゃんに腹を立て、自分たちを捨てた父親に腹を立て、自殺した母親に腹を立てている。最後は自分に腹を立てていた。その場面が素晴らしかった。
家族の絆というものの脆さや危うさも実感させられる。幼いころから共に過ごしたきょうだいだからこそ、よけいに過去の恨みつらみや憎しみが消えないのか、誰も仲代達矢の面倒を見てくれる者がいない。むしろ血のつながらない人間のほうが親切なのだ。それまでの人生をどのように生きてきたかで一生の最期が悲しいものになるかどうかが決まる、なにやら因果応報という言葉が浮かんでくるではないか。
この映画でいちばん感心したのは、料理が温かいままに出されていたことだ。麺類はちゃんと湯気が立ち、作り立てが提供されていることがわかった。これは演出上大変だったろうと思わせる。
脇役が全員芸達者なので、それだけでも見ごたえがある。ただし、「この老人のような年寄りにだけはなるまい」と思わせる話なので、共感を以てこの映画を観ることは難しいかもしれない。(U-Next)
134分、日本、2009
監督・脚本:小林政広、製作:與田尚志、撮影:高間賢治、音楽:佐久間順平
出演:仲代達矢、徳永えり、大滝秀治、菅井きん、小林薫、田中裕子、淡島千景、長尾奈奈、柄本明、美保純、戸田菜穂、香川照之