吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

バトル・オブ・ザ・セクシーズ

 これは面白かった! 拍手喝采である。

 まずはエマ・ストーンがキング夫人にそっくりなので大いに驚いた。彼女は作品ごとにまったく別人に化ける。メイクのおかげなのか、本人の演技力のなせる業なのか、おそらくその両方なのだろう。


 わたしが中学生の頃に夢中で読んだテニス漫画「エースをねらえ!」に何度もキング夫人、コート夫人、という言葉が登場し、彼女たちの姿が挿入されていたことを思い出す。あの当時、女子テニス界の女王はいずれも既婚者であったことをわたしは不思議に思っていた。結婚してもテニスで王者になれるんだ、と。しかし、1973年にキング夫人と男子の元世界チャンピオンとの試合が行われたことは知らなかった。
 本作はその詳細をビリー・ジーン・キングの立場から描いた痛快なドラマだ。1972年、ビリーは女子チャンピオンとしてゆるぎない地位を占めていたが、自身の賞金が男子の八分の一であることに怒り、テニス協会の理事に直談判する。賞金に男女差があるのは当然と言ってのける理事に憤ったビリーは、自ら女子テニス協会を立ち上げて女子だけの興行を始めた。そんな彼女のライバルは子育てをしながら世界ツアーを敢行するコート夫人だった。
 そんな折、かつての男子チャンピオン、今や賭け事にうつつを抜かすボビー・リッグズは裕福な妻に三下り半をつきつけられて生活の危機に陥っていた。起死回生を狙ったボビーはコート夫人を説き伏せて1973年5月に「BATTLE OF THE SEXES = 両性の闘い」を開催する。既に現役を引退していた55歳のボビーに対してコート夫人は完敗した。ボビーのボルテージはあがり、ついに同年9月、ビリーもその挑発に乗ることとなった。
 かくして、「男性至上主義のブタ対フェミニスト!」と自ら道化の役を買って出るボビー・リッグズとの世紀の対戦が行われることとなる。
 クライマックスの対戦はテレビ中継と同じく固定のテレビカメラで上から撮影されている。ロングストロークの応酬が続き、ネットに寄ったスマッシュやボレーも繰り出されるその試合は完璧に再現されているという。テニス経験のないエマ・ストーンがものすごい特訓に耐えたその結果のプレイぶりが素晴らしい。まあ、わたしはテニスのド素人なのであの程度でいいのかどうかもわからないが。
 映画のもう一つの重要なストーリーはビリー・キングの恋愛だ。夫がいながら女性に惹かれ、関係をもってしまう。いまではカミングアウトしたビリーの同性愛については全世界が知っていることなのだが、当時はこの事実は隠されていた。のちに夫とは離婚するが、今でもビリーはキング姓を名乗っている。優しく寛大な夫がビリーの恋を知って衝撃を受けてしまい、同時にビリーも大きな動揺を受ける。その結果がコート夫人との試合でのミスと敗北へとつながる場面は苦しい。
 この映画では、ボビー・リッグズは悪ふざけの過ぎた男として描かれているが、なかなかに計算高いところがあって、憎めないキャラである。実はビリーとボビーはその後も仲良しだったというから驚きだ。この二人は女性解放運動にとってとても大きな意味をもつ1973年のテニスシーンになくてはならない人物だ。彼女たちの闘いがあって世の中は変わっていった。そのことを強く感じる。
 そして今でも、ビリー・キングは女性の地位向上のために闘い続ける。そのことが嬉しい。鑑賞後の気分が爽快で実に気持ちのいい映画だった。

BATTLE OF THE SEXES
122分、イギリス/アメリカ、2017
監督:ヴァレリー・ファリスジョナサン・デイトン、脚本:サイモン・ボーフォイ、音楽:ニコラス・ブリテル
出演:エマ・ストーンスティーヴ・カレルアンドレア・ライズブローサラ・シルヴァーマンビル・プルマンアラン・カミングエリザベス・シュー