吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

リップヴァンウィンクルの花嫁

 f:id:ginyu:20180702144753p:plain

 黒木華の魅力がほぼすべて。よくぞ彼女を主役に据えたものだ、お見事。あ、すべてではない。残りの魅力はなんといっても怪しげな綾野剛。彼が演じる正体不明の安室という何でも屋、物腰柔らかな善人そうな詐欺師、彼が物語全体を不思議なムードに陥れている。
 いかにも岩井俊二らしい、夢を見ているような不思議な美しい光景が繰り広げられる。それがたとえ新妻が策略に陥れられる悲劇の物語であっても、そのようにはかなげで美しい。
 黒木華が演じる非常勤教師は「声が小さい」と生徒に嘲笑されるような、自信なさげな若い教師だ。こんな人、そもそも教師に向いていない。これほど根性も度胸も声の大きさもないなら、教師にならなければいい。しかし、そんな彼女を慕う「通信教育」の教え子がいる。そうか、こんなふうに静かにはかなげに話す相手とは安心できる子もいるんだ。確かにそうかもしれない。いつも声が大きくて明るくて自信たっぷりな人間ばかりだとそれはそれで疲れるよね。わたし自身は地声が大きいから、それが苦痛になる人もいるんだろうなぁとうっすらと想像してみる。
 さて、物語は。これはもうストーリーがあるのかないのかよくわからない話だ。わたしはまったく予備知識なしに見始めたものだから、話がどこに転がるのか全然わからなくて、「えええええ、そんな話なの」と驚いたり感動したり、とうとう最後には「ほんまかいな」と、そのフェイクぶりにあきれながらも感心してしまった。りりぃが登場するところからいきなりすごい展開になるので、ここは必見。そして、そのりりぃを受けて立つ綾野剛がやっぱり怪しい。こいつは怪しい。絶対怪しい。
 で、ストーリーは。て、そんなもの、書かないほうがいいんです。だって、次にまたこの映画を観たことを忘れてもう一度見るときのために書かないほうがいい。でも、見終わった瞬間に、「で?」と思ってしまった。いったい何を言いたかったんでしょう。一人の若い女性の成長物語? でも彼女、成長しているようには見えないよ。いろんな人に騙されたままだしね。(レンタルDVD)

180分、日本、2016
監督・脚本:岩井俊二
出演:黒木華Cocco、地曵豪、和田聰宏、りりィ、綾野剛