巻頭からの派手なショーは、「ラ・ラ・ランド」と同じ作風(作詞・作曲は同じでも監督は違うのにね)。まあ、ここは定番のつかみの部分でしょう。
時代はぐっと遡って1800年代。実在したアメリカのショービジネス界の草分けと言われているP・T・バーナムの半生記である。わたしはバーナムのことを全く知らなかったので、本作は大変興味深かった。おそらく実際のバーナムよりもかなり美化されているであろうヒュー・ジャックマン演じる主人公は、上昇志向に取りつかれたギラギラ男であり、山師で、かつ家族愛に満ちている複雑な人物だ。
バーナムは世界で初めてサーカスという出し物を考え付いたアイデアマンであり、つねに新奇なショーを出し続けたイマジネーションの人であったという。と同時に彼のやりかたが合法・非合法のすれすれであり、というよりむしろ非合法でもなんとかすり抜けられるギリギリのところを歩んでいたことがわかる。結果オーライのこの才覚は素晴らしいともいえる。成功する人間というのはこういうものかもしれない。
本作の演出は時代考証を無視した現代風のもので、そこが面白い。だからこそ、つかみの部分からぐっと映画の観客を作品の中に引きずり込む力があるのだ。シルクドソレイユのような芸術的なロープ演技やロックのリズムで奏でる歌と群舞、これがとても19世紀に存在したとは思えないから、現代の観客向けのサービスなのである。
100分弱に刈り込んだ物語は編集が無駄なく時間をつないで素晴らしい。現代風にお話はサクサクと進み、わかりやすい物語はエンタメ作として上等だ。レベッカ・ファーガソン以外の役者がみな自分で歌って踊っているところも素晴らしく、ヒュー・ジャックマンがなんでもこなせるマルチタレントであったことに改めて感動した。
この作品のセンシティブな部分は、フリークスを題材にしていること。ここが評価の分かれ目であろう。そもそもバーナムはフリークスと呼ばれる異形の人々を見世物としか思っていなかった。これは時代の制限もあってやむを得ないのかもしれないが、映画ではそこをうまく美化して、バーナムがフリークスを利用したことをすり替え、当事者の口から「あなたは私たちに生きる場所を与えてくれた」(大意)と賛歌を贈らせている。これはある意味事実だろう。ただ、どうしても釈然としないものが残る。
とはいえ、この作品をわたしは大いに楽しんだ。権威にすがり、イギリス女王ヴィクトリアとの謁見に欣喜雀躍する俗物バーナムが、上流階級に取り入りたくてたまらない、その気持ちもとてもよく理解できた。それだけに、彼にとってはすべての人が彼の成功のための利用物・出し物に過ぎなかった、という点が事実をありのままに描いているとはいえ、冷水を浴びせられるような気持になる。そのマイナス面も含めてこの作品は考えさせられ、そしてエンターテインメントを楽しむことができた。
ミシェル・ウィリアムズがずいぶん老けていたのは驚いたが、その分落ち着きのある中年女性へと成長しているさまがよくわかり、好感度がますます増した。彼女はほんとうにうまい役者だ。
THE GREATEST SHOWMAN
104分、アメリカ、2017
監督:マイケル・グレイシー、製作:ローレンス・マーク、製作総指揮:ジェームズ・マンゴールド、脚本:ジェニー・ビックス、ビル・コンドン、撮影:シーマス・マッガーヴェイ、音楽:ジョン・デブニー、ジョセフ・トラパニーズ、楽曲:ベンジ・パセック、ジャスティン・ポール
出演:ヒュー・ジャックマン、ザック・エフロン、ミシェル・ウィリアムズ、レベッカ・ファーガソン、ゼンデイヤ、キアラ・セトル、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世