吟遊旅人ピピのシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。感謝。

苦い銭

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 BGMなし、ナレーションなし、ほとんどテロップなしの3時間近いドキュメンタリー。

 出稼ぎ労働者が住民の8割を占めるという浙江省湖州にやってくる、雲南省出身の若者たちの働く姿を淡々と映し出した映像がつながっていく。この町の個人経営の縫製工場は18,000を数え、出稼ぎ労働者が30万人以上暮らしているという。
 列車に20時間以上揺られて雲南省からやって来た若者たちは、小さな町工場に就職し、宿舎で寝泊まりする。彼らが主人公かと思いきや、この町のさまざまな人たちが入れ替わり立ち代わり登場する。小さな店を構える出稼ぎの若夫婦はカメラの前でも平気でつかみ合いの喧嘩を始める。やらせではないのかと疑うほどの迫真の場面だ。 

 ワン・ビンの撮り方は、次々と登場人物に関連を持たせながら次のシーンへとつないでいく、という群像劇の方法を採用している。だから、ドキュメンタリーでありながらストーリーがゆるやかにつながり、人々のネットワークの広さや狭さが見えてくる。とても目の前にカメラがあると思えないほど人々は自然にふるまっている。ここまで撮影できるというのは相当に被写体の信頼を得ないとできないことだ。
 出稼ぎミシン工の賃金は時給300円にも満たない。よく稼ぐ人で日給2550円。少ない場合は1190円という労働者もいる。それは出来高制をとっているからだ。
 わたしたちが普段着ている中国製の衣服がこの映画に映し出されるような町工場で工場制手工業のもとに製作されていることを知るべきだ。彼らの犠牲の上に、わたしたちの安価な服は手に入る。田舎から出稼ぎで都会(といっても洗練さとは程遠い雑然とした汚い町)に来た男女の夢は破れ、経営者もまた採算が合わないとぼやいている。すでに中年に達している出稼ぎ者のなかには酒とギャンブルに溺れる者や、マルチ商法に手をだそうとしている者もいる。

 ワン・ビンは淡々と目の前に起きていることをただ写しているだけに見える。それは文字通り苦い銭の世界だ。銭を稼ぐという、それだけのことのためにただひたすら働き続けている。驚異の経済発展を遂げる中国の、これは「不都合な真実」なのかもしれない。

苦銭
163分、フランス/香港、2016
監督:ワン・ビン