吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

人生は小説よりも奇なり

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 しみじみと味わいのある作品。しかし、これは年老いたゲイカップルの話として、というよりも、年老いたカップルにありそうな話という気がして身につまされるものがある。

 物語は中高年ゲイカップルの結婚式から始まる。二人は39年間同居していたが、ついに同性婚が合法化されたことにより、親族に暖かく見守られつつ挙式する。しかしそのことにより、教会付きの音楽教師であるジョージは馘首され、同時にアパートも失うことに。ジョージより年上で71歳になるベンは画家だが、定収があるようには見えない。住居を失った彼らは新婚早々別居の憂き目を見ることになる。それぞれ別々に親戚や友人宅に身を寄せることになるのだが、そこはどんなに温かい家庭のように見えても、二人の愛の巣ではない。ジョージもベンも疎外感を募らせていき、一週間に一度しか会えないことを嘆く。ジョージの再就職はなかなかうまくいかない。そうこうするうちに、ベンが転倒して骨折してしまう。。。。

 これは、老年期を迎えつつあるゲイカップルの悲しくもいとおしい日々だ。ゲイであるがゆえに就職差別を受け、一緒に住むこともままならない。彼らはもう40年近くも一緒に暮らしていて、いまだに互いを求め深く愛しあっている。音楽家と画家という芸術家同士の彼らは品の良いカップルであり、周囲もそういう目で見てくれている。しかし、他人の家族に同居するということはいくら善意の人々の集まりの中でも軋轢を生む。そのことが手に取るようによくわかる演出が優れている。

 つつましい生活でもいいから、二人きりで暮らしたい。そう思うささやかな願いさえも叶わない。不寛容な社会がゲイカップルを追い詰める。しかしこの映画は同性婚差別への糾弾を叫ぶものではない。ただただ、老いていくことの悲しみが静かに横たわる作品だ。同性愛であろうと異性愛であろうと、いつかは身体が老い、愛も老いていく。もはや若者の熱情物語よりも、老人の静かな愛情物語に心惹かれる年齢になってしまったよ、わたしも。(UNEXT)

LOVE IS STRANGE
95分、アメリカ、2014
監督:アイラ・サックス、製作:ルーカス・ホアキンほか、脚本:アイラ・サックス、マウリシオ・ザカリーアス
出演:ジョン・リスゴーアルフレッド・モリナマリサ・トメイ、ダーレン・バロウズ、チャーリー・ターハン