吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

アレクサンドリア

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 これぞまさしく図書館映画。世界最古の図書館、アレクサンドリアにあった巨大な図書館が舞台となる。つい最近、レイチェル・ワイズ歴史学者を演じた「否定と肯定」を見たばかりで、この人がもともとこういう理知的な役をやらせると似合っているということを改めて認識した。
 ローマ帝国キリスト教が国教となった時期を舞台とする史実であり、ヒュパティアという哲学者が女ゆえに、そして科学者であるがゆえにキリスト教徒によって惨殺されるという悲劇を描いている。美しく聡明な先生であるヒュパティアに憧れる弟子たちが続出。しかし彼女は学問以外には興味がない。台頭してくるキリスト教徒は好戦的で傍若無人である。地動説を唱えるヒュパティアはキリスト教徒にとっては厄介者であり、聖書には「女が教師になったり男の上に立ってにものを教えるなどもってのほか」と書いてあるために、彼女は弾圧の対象となる。ほんまに聖書にそんなことが書いてあるのかな、と疑ってしまうほどひどい女性蔑視の文言が続く。
 排他的で非和解的な原理主義は危険だということがこの映画の言いたかったことなのだろう。カトリック国スペインでこの映画が作られたことの意味を考えると、イスラム教徒を非難する資格がキリスト教徒にあるのか、という自戒の作なのかもしれない。
 学問と信念に殉じた強い女性が主人公の映画というのはわたしの琴線に触れるものがあるので、大変感動したが、残念なことに登場人物たちの思想や背景などがきちんと整理されているとは言い難く、全体にわかりにくい構造になっている。3時間ぐらいかけてじっくり描くべきではなかったか。物語の時間の経過もまったく感じることのできないところが不満として残る。(u-next)

AGORA
127分、スペイン、2009
監督:アレハンドロ・アメナーバル、脚本:アレハンドロ・アメナーバル、マテオ・ヒル、音楽:ダリオ・マリアネッリ
出演:レイチェル・ワイズマックス・ミンゲラオスカー・アイザックマイケル・ロンズデール