吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

シャトーブリアンからの手紙

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 タイトルにある「手紙」とは、シャトーブリアン郡にあった政治犯収容所で処刑された27人の囚人が家族に宛てて書いた遺書を指す。本作はナチス占領下のフランスで実際に起きた事件を元にしたドラマだ。主人公の少年はわずか17歳。まだ幼さの残る顔をしているが、彼はいっぱしのレジスタンスだ。反独のビラを撒いて逮捕され、政治犯収容所に入れられていた。
 ある日、町でドイツ軍将校が暗殺された。激怒したヒトラーは犯人が捕まらない限り、報復としてフランス人150人を処刑すると宣言した。まずは50人。そのリスト作成を命じられたフランス人の副知事は苦悩に満ちて、ドイツ軍将校に反論を試みる。このシーンのカメラが面白い。室内でドイツの軍人とフランス人吏員が議論しているのだが、画面が斜めに切り取られている。板張りの壁に走る縦縞模様が斜めになっているのがはっきりわかるので、その斜めぶりは否が応でも強調される。これはフランス人役人の内面の動揺を表しているのだろう。こういう場面で画面を揺らす監督は多いのだが、シュレンドルフは画面を斜めにして固定カメラで切り返し撮影をすることを選んだ。なかなか面白いフレームだ。
 映画は淡々とそして詳細に、処刑へと向かう手続きを描いていく。フランス人公務員はドイツ軍の命令に逆らうことができない。反論しても最後は言いくるめられ、「公務員だから」と言い逃れをして同胞を殺すことに手を貸す。共産主義者たちは党への忠誠心と不信感のはざまで動揺する。ソ連共産党への不信を表すセリフも挿入され、この当時の党員たちの意識の一端が分かる脚本が興味深い。
 また、フランス文化への憧憬を口にするドイツ人作家も登場し、この映画では様々な立場の人間の苦悩や葛藤を等価に描いていく。このような事実があったとは知らなかった。粛々と人を殺すことの恐ろしさを鋭く描いた佳作だ。(U-NEXT)

LA MER A L'AUBE
91分、フランス/ドイツ、2011
監督・脚本:フォルカー・シュレンドルフ、製作:ブリュノ・プティ、音楽:ブリュノ・クーレ
出演:レオ=ポール・サルマン、マルク・バルベ、ウルリッヒ・マテス、マルタン・ロワズィヨン、ヴィクトワール・デュボワ、ジャン=マルク・ルロ、セバスティアン・アカール