吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

アイ・インザ・スカイ  世界一安全な戦場

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 まったく緊張感が途切れることなく、手に汗握る。これが現実の話なのだとしたら、現場の指揮官と軍人のストレスたるや筆舌に尽くしがたいだろう。ヘレン・ミレンはこういう「鉄の女」役が実によく似合う。

 ヘレン・ミレンが見事に演じたパウエル大佐は、現場を指揮して困難な状況に決断を下す。それは、今まさに自爆テロを行おうとしているテロリストを空爆によって殺害するのかどうか、という決断。超小型カメラでその様子を見ている指令室はロンドンにある。テロの現場はケニアのナイロビ。空爆を指令されてドローン攻撃の操縦をするのはアメリカネバダ州にある米軍施設の軍人。

 現代の戦争がこのような遠隔装置で動いているのかどうかは知らないが、この映画は戦争映画というよりは心理サスペンスである。テロリストのアジトのすぐ隣の路上で一人の少女がパンを売り始めた。空爆すれば少女を殺すことになる。しかし空爆しなければ大規模テロが起きる。少女を犠牲にしてもより大きな犠牲を防ぐのかどうか。映画は究極の選択を観客にも迫る。

 少女の姿を空からの映像で見ている軍人や政治家たちもジリジリとじれていく。早くパンを売り切ってそこをどいてくれ! どうするんだ、この状況で空爆を行うのか。人道的な見地からは少女の犠牲は避けねばならない。しかししかし。

 こんな胃の痛い現場に立たされる者の身にもなってほしいというものだ。これが戦争であり、これが戦場なのか。答えはない。

 ところで、本作はアラン・リックマンの遺作となった。素晴らしい作品を残してくれてありがとう。(U-NEXT)

EYE IN THE SKY

102分、イギリス、2015

監督:ギャヴィン・フッド、脚本:ガイ・ヒバート、音楽:ポール・ヘプカー、マーク・キリアン

出演:ヘレン・ミレン、アーロン・ポールアラン・リックマンバーカッド・アブディ