ジェシカ・チャステインがこれ以上ないほど嫌な女ロビイストを演じている。主人公エリザベスは真っ赤な口紅を引き、ピンヒールにタイトなスーツといういで立ち。いかにもキャリアウーマンという彼女は恋愛をする気もないのか、セックスは男娼を買うことで処理する。辛辣な物言い、甘さなどかけらもない辣腕ぶり、にこりともしない不愛想なまなざし。あらゆる競争に打ち勝ってきたロビイストは、しかしその勝利と引き換えに神経をボロボロにしていた。眠れない彼女は自分が眠らないものだから、部下も眠らせない。あまりにも高い要求についてこられない部下は離れていく。典型的なパワハラタイプの女性だ。
「ロビイストの陰謀」(2010年)がこの仕事の実録ものとしては大層面白く、ロビイ活動がお金を生むさまを見せてくれたが、本作ではさらにそこに大きな政治駆け引きと騙し合いのサスペンスを盛り込み、観客の目を釘付けにする。ラストがわかってからもう一度見直してみたくなるような映画だ。
テーマは二つ。銃規制問題にどう取り組むのか、規制法案がいかなる政治的圧力のもとに左右されるのか、を詳細に知らしめる。もう一つは、手に余る問題に取り組むとき、人は何を得て何を失うのか。犠牲を出してでも手に入れたいものとは何なのか、という倫理と信念の問題。言い換えれば、政治と生き方という二つのテーマだ。これはいずれも深淵なる問いで、わたしにとっても他人事とは思えない物語だった。もちろん立場や考え方や職業その他、主人公との違いはありすぎるけれどね。おそらく多くの人に共感または反感を買う映画で、それはつまり普遍性があるからだ。
ジェシカ・チャスティンがもうちょっと魅力的に見えたらよいのだけど、この映画のテーマからしたらまあしょうがないね。脚本にうなる、必見作。
MISS SLOANE
132分、フランス/アメリカ、2016
監督:ジョン・マッデン、製作:ベン・ブラウニングほか、脚本:ジョナサン・ペレラ、撮影:セバスチャン・ブレンコフ、音楽:マックス・リヒター
出演:ジェシカ・チャステイン、マーク・ストロング、ググ・ンバータ=ロー、アリソン・ピル、マイケル・スタールバーグ