吟遊旅人のシネマな日々

歌って踊れる図書館司書、エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)の館長・谷合佳代子の個人ブログ。映画評はネタばれも含むのでご注意。映画のデータはallcinema から引用しました。写真は映画.comからリンク取得。感謝。㏋に掲載していた800本の映画評が現在閲覧できなくなっているので、少しずつこちらに転載中ですが全部終わるのは2025年ごろかも。旧ブログの500本弱も統合中ですがいつ終わるか見当つかず。本ブログの文章はクリエイティブ・コモンズ・ライセンス CC-BY-SA で公開します。

武士の献立

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 テレビ放映を意識したのか予定調和の美しい話で、大人向けの色っぽい場面もなくお茶の間の一家団欒に相応しい映画だ。だからお話もスイスイ進むし、ひっかかるところがさしてないのだが、何といっても画面に映し出される料理がおいしそうで、また「包丁侍」なるものの存在も知らなかったのでその点では新鮮味があって面白く見ることができた。
 舞台は江戸時代中期の加賀藩。実在した料理方親子の物語を、加賀藩のお家騒動を交えて描く。江戸屋敷から始まる話は、家族を亡くした春という娘が加賀藩の舟木家に請われて嫁入りするところから始まる。この春という娘が上戸彩で、明るく器量よし、とてもよい雰囲気を出していて好感が持てる。春は料理の腕を見込まれて、「わが息子に料理を指南してほしい」と頼まれたわけだ。春は「出戻り」であり、夫となる舟木安信より4歳年上だった。
 というところから、腕の悪い夫・安信を叱咤激励して一人前の料理方に育て上げる賢妻としての春が、縁の下の力持ち的な自己犠牲精神を発揮していく美談として描かれる。前半はかなりユーモラスで、のんびりした演出なのだが、途中で加賀藩のお家騒動が起きて改革派と守旧派の対立が起きるといきなりシリアスな政治ドラマ化する。とはいえ、やはりそこはホームドラマの域を出ないので、アクションドラマにもならない。
 舟木安信と春という夫婦二人が美男美女なので映画的には観ていて気持ちよい。姑の余貴美子の貫禄にも驚いた。この人、いつのまにこんなおば(あ)さんになったんだろう。気性のさっぱりした姑役をユーモアたっぷりに堂々と演じていて、これまた好感度高し。
 加賀藩の騒動のことは知らなかったし、将軍家饗応役という料理方の包丁儀式も興味深く、とにかく出てくる膳がどれもこれも素晴らしく、目を見張っているうちに物語が美しくまとまってしまったので、全然退屈せず。最後は思わず落涙。という安心安全なお話なのでファミリー向けにいいのではないでしょうか。惜しむらくはあの美味しそうな料理をもっとじっくり見せてほしかったし、解説もつけてほしいなー。(U-NEXT)

121分、日本、2013
監督:朝原雄三、脚本:柏田道夫、山室有紀子、朝原雄三、音楽:岩代太郎
出演:上戸彩高良健吾余貴美子成海璃子柄本佑夏川結衣笹野高史緒形直人鹿賀丈史西田敏行